弱虫の俺がちょっぴり強くなる話

なるとし

ちょっぴり強くなるまでのたかひろくんの物語

 俺は弱虫だ。


 いつからこうなったかは覚えてないけど、ことあるごとに俺は怯え尻込みする。もちろん、俺が今通う中学校でも例外ではない。


「よ、ひろたか、一緒にサッカーやる?」


「ぼ、俺!?」

 

 俺はこの弱虫なところがずっと嫌だった。だから昔からこの性格を治したかったのだが、いきなりサッカーなんてハードル高いよな。

 

 サッカーは体を使うスポーツだ。弱虫で体力もない俺が加わったら返って迷惑になるだけだろう。あと、体ぶつかったり、こけたりしたら痛いし怖い。


「誘ってくれたのは嬉しいけど、やっぱ……」


「たかひろくんは弱虫だからサッカーやるのが怖くてビビってるもんね」


「ん!」

 

 突然、あやせが俺をからかってきた。あやせは俺の幼なじみで、いつも俺の邪魔をし嫌味ばかりいう女の子。


「なあ、たかひろ、別に嫌ならやらんでいいよ。俺たちだけでするから」


「や、やってやる!」


「お、おう」


 俺は今日ほど自分の行動を後悔した日はなかった。


「お、おいひろたか大丈夫?めっちゃしんどそうだけど……擦り傷もあるし」


「うううううぅ……ごめん俺もう無理……」


 俺はチームの役に全然立たず、ボール逃すわ転ぶわで足手まといになるだけだった。結局、俺はグランドの外に行き、地ベタに座り込んでサッカーを楽しんでいる男子を見ている。


「ふふっ、たかひろくん全然役に立たなかったね」

 

 またあやせか……


「うるさい」


「擦り傷大丈夫?保健室に連れてってあげようか?」


「余計なお世話だ!こんなの傷、別に大したことじゃない!」


 と、俺は立ち上がってそのまま家に帰った。ちなみに傷は思っていたより痛かった。めっちゃ痛い。



 ○次の日



「たかひろくん、膝の傷は大丈夫?」


「い、言っただろ。別に大した傷じゃな……ああああ!いたたたた!」

 

 あやせはいきなり膝をつついてきた。


「ふふっ、全然大丈夫じゃないでしょ?臆病者のくせに強がっちゃって」


「う、うるさい!あああいたい!やめろ!」


 あやせはいつもこんな感じだ。俺をからかって煽ったらポイントでも貯まるのか。本当に勘弁してくれよ。


 俺が一生懸命弱虫を治そうとしても、あやせが全部台無しにする。つまり、俺がもっとも警戒すべき敵である。



 ○体育授業


 

「今日は立ち幅跳びをするから、準備運動するよ」


 昨日は散々醜態しゅうたいさらしたけど、今日はクラスのみんなに格好いいところ見せないと。サッカーは長時間体を動かすから怖かったけど、立ち幅跳びは俺でも簡単にできる。弱虫だけど、今日は頑張る!


「たかひろくんって立ち幅跳び諦めた方がいいと思うよ」


 また煽ってきやがったか。


「なんでだ」


「だって、昨日派手に転んで膝が傷だらけでしょ?」


「余計なお世話だ。からかうつもりなら俺に話かけないで」


「……」

 

 数分後、自分の番がやってきた。


 よし。今日、俺はここで生まれ変わる。


「たかひろ、思いっきり飛んでけ!」


 と、先生が言って、クラスのみんなが俺を見ている。なんだか、怖くなった。止めた方がいいかな。こんな注目されたら体が動かないよ……


 俺はクラスのみんなが集まってるところに視線を送ってみる。


 あやせのやつ、浮かない顔している。俺が格好いいところ見せてクラスの人気者になるのが嫌だから悔しがっているに違いない。ざまあみろ。


 あやせの暗い表情を見ると、だんだん力がみなぎってくる。これならいける。


 と、覚悟を決めた俺は思いっきり飛ぶ……ことは叶わず前の土に向かって派手に転んでしまった。


「ヴハッ!」


「た、たかひろ……大丈夫か」


 先生が心配そうに聞いてくる。


「はははは!!めっちゃ笑えるんだけどこれ!!」


「臆病者のくせに力みやがって、ぷふっ」


「たかひろらしいな!ははは!」


 また、格好悪いところ見せてしまった。俺はいつだってこうだ。いくら頑張っても笑われてなめられる。


 もうだめだ。


 僕は重たい体をなんとか動かして立ち上がった。だが、膝が滲みるように痛いのでつまづいてしまう。


「たかひろ!膝から血が出てるよ!早く保健室に行かないと!」


 どうやら、昨日貼っておいた絆創膏が剥がれたようだ。ああ、本当に最悪。


「先生、私がたかひろくんを保健室まで連れて行きます!」


「おお、あやせ、頼む!」


「たかひろくん、肩かしてあげるから早く保健室行こう?」


「うるさい……」


 本当、俺は惨めなやつだ。


「無茶しないで、早く!」

 

 いつも、俺を散々馬鹿にしてるやつに助けてもらうハメになるなんて……こんなの……こんなのありかよ。


「触るな!俺、一人でも全然、平気……へい、き、だから……」

 

 涙が止まらない。必死に我慢しようとしてたのに……


「たかひろくん……」


 俺は歯を食いしばって一人で保健室まで歩いた。頬を伝う涙を拭いながら。クラスのみんなが俺を見てざわついている。おそらく笑っているのだろう。



○保健室



「はい、終わり!」


「……」


「一週間は体育禁止よ!絶対だから!」


「はい」


「先生ちょっとトイレ行ってくるわ。体育授業が終わるまでベッドで休んでもいいからゆっくりしていってね」


「あ、ありがとうございます」


 一人っきりになった。まだ目元が赤いままだから、保健室の先生も俺が泣いたこと知っているだろう。


 弱虫に泣き虫。俺を表すもっとも的確な単語である。やっぱり俺は何やってもだめだ。一生臆病者のままか。


 落胆らくたんしていると、ゆっくりと戸が開けられる音が聞こえてきた。


「たかひろくん」


 追い討ちをかけにきたのか。


 あやせは俺が座っているベットに来た。だけど、俺は頭をうつむかせているので、彼女の表情はうかがい知れない。


「俺なんかがいくら頑張っても所詮、このざまだ」


「……」


「あやせさんはこんな泣き虫で弱虫な俺を冷やかしに来たんでしょ?だったら好き勝手やればいいよ……」


 また涙が流れてくる。悔しい。


「ひろたかくんは、強くなりたい?」


「……」


「クラスのみんなに格好いいところ見せたい?」


「ああ!そうだよ!弱虫な俺なんかもううんざりだ!」


 俺は顔を上げて充血し切った目であやせにそう叫んだ。きっと笑われるんだろう。からかわられるんだろう。だってこの子は毎日俺を挑発しないと気が済まないたち……


 ちゅっ


 な、なにっ!?


 あやせは俺の頬にキスした。


「ひろたかくんは弱虫だけど、いつも頑張るから、か、格好いいの……」


 俺は今日、ちょっぴり強くなりました。



 

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