37●“最後の戦い”の分析⑤……氷上船、冷たい炎、太陽の剣の消滅
37●“最後の戦い”の分析⑤……氷上船、冷たい炎、太陽の剣の消滅
“最後の戦い”の人類側の勝利と躍進を象徴する兵器が、グルンワルドを追跡する氷上船ですね。
木製の
とはいえ急にこしらえることはできないでしょうから、いよいよ最後の場合に村を捨てて、魔物たちの包囲を抜けて女性や子供を脱出させるための
DVDを観るかぎり、画面では五隻まで認められ、一号艇から五号艇まであったようです。舳先の油壺は、木枠で挟むタイプと、吊り下げるタイプがあります。
ここで気になる謎は、氷上船の動力。
いや、風でしょう……と答えたくなるのですが、帆をかけて追い風で走っているように見えながら、舳先の油壷の炎は、後方へたなびいている!
追い風なら、油壷の炎は、前方へ向かって揺らいでいかなくてはなりません。
中世の帆船が帆走している様子を描いた絵画では、
ただし、イメージボード(RAE177頁)では、舳先の炎が前方へなびくタイプと、後方へなびくタイプの、両方が描かれています。
この描き分けが凄い。
同ページ下のイラストは昔の和船の帆にみるような
このような帆の場合、基本的に追い風で走り、船首の油壺の炎と煙は前方へたなびきます。
対して、上のイラストでは、三角帆で走っています。
三角帆ですと、じつは、向かい風に対してジグザグに“間切る”走り方ができます。
その場合、炎と煙は、向かい風なので“後方へ”流れることになり、イラストもそのように表現されています。
これは向かい風のジグザグ航法だ……と考えれば、理屈に合っているのです。
では、『ホルス……』の本番の氷上船はどうでしょうか。
まず、三角帆を採用しています。ですから、向かい風でもジグザグコースで推進できます。
さらに凄い点は、三角帆は操作の仕方によって、船の前進だけでなく、方向転換も可能にすることです。
氷上船は氷の上を滑りますから、水中に板を降ろす方式の舵が使えません。
その点、三角帆にしたことは、極めて、極めて合理的と言えます!
向かい風でジグザグに進んでいった、と考えれば、油壺の炎の向きは“後方へ”たなびいていてOKなのです。
とはいえ……
画面を見るかぎり、氷上船がジグザグ航法で進んでいるのか、よくわかりません。
さらに氷上船は当初、村の前を流れていて氷結した河を、川上へと走っています。
これは上り坂です。氷上船を追いかけるモーグも、上り坂を走っています。
ジグザグ航法なら傾斜がゆるやかになってメリットがある、ともいえますが、ジグザグコースの角度を変えて“間切る”たびに帆の向きを変える面倒な作業があり、かつ、上り坂というのは……かなりの重労働になる上、船足が鈍くならざるを得ないでしょう。
この点も、謎の一つです。
そして氷の城に入った氷上船は、どれもが帆を畳んでまっしぐらに、かなりの高速で滑走して来ます。(RAE50頁)
とすると、風力に頼っていない?
しかも、三角帆をしまって、舵がきかない状態です。
どうやら、風力説は捨てたほうがいいようです。
こだわると、たぶん説明に窮します。
ということは……
魔法力、ですか、やっぱり。
例えば、太陽の剣は熱く、エネルギーポテンシャルが極めて高い。
グルンワルドは冷たく、エネルギーポテンシャルが低い。むしろマイナスである。
エネルギーが高きから低きへ流れるように、太陽の剣はグルンワルドを追いかけていく。
兵器として使われる太陽の剣には、自動的にこういった敵を探知し、敵を直撃しようと追跡するホーミング能力が備わっているとみていいのではないでしょうか。
ミサイルの誘導装置みたいなものですね。
グルンワルドは太陽の剣に、ロックオンされた状態なのです。
だから、あんなに恐れていた……とも考えられますね。
それゆえか、太陽の剣はホルスの一振りで確実にグルンワルドを捉え、二回にわたって彼の飛行マントを正確に切り裂いています。
さて、氷上船の油壷の炎は、“みんなで燃やしたあの火”を分火した、独特の魔法力を備えた炎だとしましょう。
これも同様に、エネルギーレベルの低いグルンワルドを追いかけて、船全体を引っ張っていくパワーを発揮しているのではないでしょうか?
まるで、スペースオペラの“牽引ビーム”のように。
なんだか苦しい論拠ですが、帆を畳んでも勢いよく、しかも上り坂らしい環境で疾走する氷上船を説明するには、このさい常識的な物理力を超えた魔法の動力および誘導力の影響下にあった……と考えるしかなかろうと思います。
このように、氷上船も謎をはらんでいます。
画面ではすいすいと軽快に走っているようですが……
この追撃戦も、途中でグルンワルドが反撃を試みるとか、氷の城の自己防衛トラップシステムなどを攻略せねばならず、数時間におよぶ長旅だったと考えられます。
おそらく深夜から明け方にかけての追跡ですね。
氷の城に乱入した村民軍は、きっと腹ペコであったろうと推測されます。
*
そこで、次なる謎ですが……
グルンワルドが最後に逃げ込んだ氷の広間、あの場所で台座の上に燃やされていた、白く冷たそうな炎状の物質は、何だったのでしょうか?(RAE29頁 左一番下のコマ)
さすがに、これはわかりません。
グルンワルドのマイナスエネルギーの源なのでしょうか?
それにしても、村民軍が周囲に投げ込んだ
“冷たい炎状のもの”は、ちろちろと、トロ火で弱々しく燃えているようですが、物語の中盤でトトの報告を聞く場面(文春ジブリ文庫シネマ・コミック176頁)でも、すでに燃え方はちろちろですから、太陽の剣が攻めて来たことで急に力が弱まったとは考えにくいでしょう。
この“冷たい炎状のもの”。グルンワルドが後生大事に城の中心に据えて守っていたわけですから、彼の存在をささえる基本的な要素だったことは確かです。
そこで思いますに……
グルンワルドの力の源は、この世から熱を奪う、極寒のマイナスエネルギーであると想像されます。
おそらくこの氷の城には、絶対零度に達するマイナスエネルギーの中心核のようなものがあり、この世の熱量を吸い込んで徹底的に冷やしまくり、冷やしたエネルギー媒体を地下タンクのようなものにため込んでいるのでしょう。
とすると、ちろちろと燃えるような冷たい物体の土台となっているカップ型の、いわば“冷火台”は、熱量を吸い込むバルブであり、その架台は熱量を急速に取り去る“熱交換器”的な役割を果たしているのでは?
クーラーの室内機の吸気口みたいな。
ただし、物凄い急速冷凍なので、その場の空気が吸い込まれるとき、熱を奪われて、順次、液体窒素と液体酸素に相転移して吸い込まれるのでしょう
炎のように見えるのは、空気が液化する途中段階で、霧のような、みぞれのような状態になり、架台の中で液体になってゆくからではないかと。
つまり、上に向かって燃焼しているのでなく、全くその逆で、下に向かって吸い込まれてゆく気体が霧やみぞれの状態となって、炎のような形に見えるのではないでしょうか。
まあ、どのようにでも解釈できますが……
とはいえ、“冷たい炎”なんて、造形的にもなかなか粋で、作品の設定デザインのセンスが光りますね。今ならCGでつくるのでしょうが、当時の手描きで燃やされていると、粘っこさも感じる、いかにも謎の物体的で妖しい雰囲気があります。
ともあれ、太陽の剣はグルンワルド本人と同時にこの“冷たい炎”を破壊消滅させ、氷の城の躯体も地中へと崩壊してゆきました。
太陽の剣もその熱量エネルギーを使い果たし、消滅したのでしょう。
十年後の1978年、ハイハーバーの遥か沖にギガントが墜落して消えたように……
あるいは1984年、世界を滅ぼした巨神兵の最後の一体が大地に崩れたように……
悪魔グルンワルドとともに、太陽の剣も、滅びた。
『ホルス……』の最後によかった点は、やはり太陽の剣の消滅ですね。
現代なら核ミサイルに匹敵する最終兵器ですから、そのままホルスの手に残れば、のちのち、災いのもとになったでしょう。
他の村々の人間たちを威嚇し、世界征服に使えますからね。
ホルスは太陽の剣を携えているだけで、独裁者に祭り上げられてしまったはず。
昨今の核兵器廃絶条約と、ことさらに関係づけるつもりはありませんが……
高畑監督は、物語のおしまいに成就すべき“平和”とは何か、本当によくご存じだったのでは、と思うのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます