34●“最後の戦い”の分析②……非公開にされた、太陽の剣の鍛造工程
34●“最後の戦い”の分析②……非公開にされた、太陽の剣の鍛造工程
反撃の気配が見えない、東の村。
村民への自己アピール……すなわち“俺様自慢”で山上に巨大映像を見せる脅しが効いたと信じて、慢心したグルンワルドは氷マンモスに座乗し、おもむろに侵攻を開始します。
空から降り注ぐ頭部型の
これは地雷と同じです。
舞い落ちる雹爆弾をやり過ごして、氷マンモスを引き付けます。
ガンコ爺さんが焚火の一つに着火するのを合図に、氷マンモスの足元から一斉に点火、炎の柱を立ち上げます。
これは熱い。踏みつけたカセットコンロがボッと火を噴いたようなものです。
ビックリ、タジタジの氷マンモス。
にしても、都合よく、大量の焚き火用木材を用意できたものです。
家屋を分解して調達しておいたものもあったのでしょうが、家屋はもともと壊れにくく作りますので、短時間でバラすのは困難、村の外側に近い家屋は、多分そのまま丸ごと燃やしたのでしょう。
そのほかの、
また、大量の着火用の油はどうやって調達したのでしょう。
この時代、産業的な石油の採掘など行われていません。植物や動物由来のエコな油だったはずです。
たぶん、鯨油。
海岸でコロが砂の山を「クジラだよ!」と間違える(RAE12頁)ように、常々、海には鯨が泳いでいたのでしょう。“東の村”は舟による河川交通で海岸近くの村と交易があり、鯨油を入手できたと考えられます。
このように、疑問が生まれるたびに説明がついてしまうところ、実によく設定された物語だと感心するしかありません。
燃え上がる焚き火が氷のマンモスをひるませます。
そこへホルスが帰還。太陽の剣を再鍛造することになりますが、じつはここで、かなりの時間を食うことになってしまったでしょう。
いくら何でも、即席カップ麺のように簡単に出来上がってはくれません。
“みんなが燃やしたあの火”で鍛えればいいと言っても、具体的にどうするのか。
マニュアルもサンプル実験データもありません。
やっては直し、の繰り返しがしばらく続いたことでしょう。
つまり、ホルスが村に舞い戻り、「太陽の剣だ!」と叫んでから、ピカピカの剣が雪上を滑り、「できたぞー!」と宣言されるまでに、五、六時間はかかったことと思われます。
そうでなければ、グルンワルドの村への侵攻開始から敗北までの十数時間、何をしていたのかわからん……ということになるわけです。
ということで、日暮れから深夜まで、延々と何時間にもわたって、村へ攻め入ろうとする氷マンモスと、村民軍の火矢と焚火攻撃が拮抗し、一進一退のハラハラドキドキの攻防戦が繰り広げられたと思われます。
油壺に火を点け、槍を加工した大型の矢で飛ばす、まるで“モロトフ火矢(仮称)”とでもいうべき火焔兵器(RAE176頁)のアイデアも、実によく組み立てられています。木組みの発射台などを使わずに、人力でセッティングするのですが、それでも本当に発射できそうに見えます。
焚き火と火矢で時間を稼ぎながら、太陽の剣の鍛造作業を進めるガンコ爺さんとポトムのチーム。
でも、実際のところ、どのような作業を経て太陽の剣が鍛えあがったのかはブラックボックスのまま、あっさりと綺麗に省略されてしまいました。
これは謎です。この戦闘の
いやいや、ホルスが“迷いの森”を脱出するときにイメージしたそのままでしょう?
と、ご指摘なさるかもしれませんが、事前のイメージと、実際の行動が同じとは限りません。
“実際に、こうやったのだ”と見せてもらってこそ、気分がスッキリするというものです。
しかしその部分は、場面変わって雪原をさまようフレップとコロに、ヒルダが命の珠を与え、自身は雪狼の犠牲となって斃れゆく、あの哀しくも感動のシーンが被せられてしまいました。
“ああっ、ヒルダが死んじゃう!”
この緊急事態に我を忘れているうちに、太陽の剣は完成してしまいました。
えっ? と思ったら、「できたぞー!」です。
さすが天才級のスタッフ陣、太陽の剣の正体を、見事というか、ちょっとズルいというか、そんな手法で隠しきったようです。
太陽の剣の正体、それは全編を通じて最大級の謎です。
岩男モーグとの約束で、この剣を鍛えるのだ! ……という目標に引っ張られて、ストーリーが展開し、収斂してきたはずです。
それが、謎のまま、あれよあれよと秘密の金庫にしまわれてしまいました。
ちょっとこれ……よく考えてみると、“手抜き工事”じゃないか?
スタッフの皆様には申し訳ありませんが、この点だけは、『ホルス……』の物語に刺さった一本のトゲ。画竜点睛を欠く、唯一の不満点なのです。
*
ここで気付かされるのは……
“村の団結”がホルス抜きで完成したことです。
ガンコ爺さんとポトムたちが巨大な焚火を燃やしたとき、村人たちはひとつになって団結しました。
直後にホルスが「みんなで燃やしたあの火」(RAE46頁)と表現したことからみて、村人みんなの団結のパワーが凝縮した火です。
この火によって、村人の団結は完成したと考えられます。
火が燃え上がったのは、ホルスが村に帰りつく前。
つまり、ホルス抜きで、村人たちは団結したわけです。
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