33●“最後の戦い”の分析①……グルンワルド、奇襲に失敗す
33●“最後の戦い”の分析①……グルンワルド、奇襲に失敗す
グルンワルドが東の村を攻め、大敗北を喫して撤退に追い込まれ、氷の城と共に滅び去るに至る“最後の戦い” (RAE42頁および180頁のタイトルより)。
人類史上、特筆すべき戦争となりました。
人類が完勝で悪魔を殲滅した、おそらく史上初の記念すべき
例えるなら、悪魔vs人類の、天下分け目の関ヶ原。
そして十年後の1978年、『未来少年コナン』でTVアニメの戦史にその名を刻んだハイハーバーvsインダストリアの“波陰戦争”とか、1995年に映像が公開された“ヤシマ作戦”、そして2083年は『ヴイナス戦記』に記述された、国家イシュタルによるアフロディア侵攻作戦……に優るとも劣らない架空戦争史のエポックメイキングといえるでしょう。
できればアニメ戦史の研究家のどなたかに、正式な名称を付けていただきたいものです。
あくまで仮称ですが、“東の村防衛戦”、“東の村戦役”とか、略称で、東の村とグルンワルドの頭文字をとって“HG戦争”とか……
とはいえ、さすがに“はるかな北の、とおいむかし”の出来事です。
残存史料は極めて少ないと思われ、画面に描写された一連の戦闘は、当然のこととはいえ要点以外は徹底的に、はしょられて、説明不足が目立ちます。
ツッコミどころ満載と言うか、謎だらけなのです。
気になる点を幾つか、ご紹介させていただきましょう。
まず、戦闘の開始から終了までの時間です。
なんだか、あっという間に決着がついたように見えますが、よく考えてみると、そうではありません。
正式な宣戦布告をおおむね省略して、グルンワルド配下の、名付けるならば
その時刻は……
時計の無い世界なので曖昧ですが、村人たちがみんな起きていたこと、洗濯物を干している家屋もあることから、日暮れまでには時間のあるころ……と推測されます。
日が暮れたら、たいていの人は寝てしまうのが一般的だったでしょう。
夜でも土器のランプや囲炉裏の火で室内を明るくできるのは、村長屋敷か、火炉のある鍛冶場くらいです。
現地の緯度が高く、季節は秋(RAE43頁の風景より)で、日暮れが早いことを考慮すれば、グルンワルド来襲は、だいたい午後3時頃までの出来事でしょう。
次に、戦闘終了時刻です。
“氷の城” (RAE178頁での呼称より)でグルンワルドが滅びる直前、岩男モーグが城壁を破って、太陽光を呼び込みます。
地面に立つモーグの背後からまぶしい陽光がダイレクトに射し込み、村民軍の槍や刀に反射しますので、太陽は低く、地平線に近い高度にあります。
とすると、朝日ですね。
戦闘終了時刻は、日の出の時刻、だいたい午前8時あたりと推定します。
と、いたしますと……
“最後の戦い”は某日の午後、日暮れ前から、翌朝の日の出に至るまで、夜を徹しておそらく十六、七時間続いたものと考えられます。
※ちなみにフィンランドはロヴァニエミの11月1日の日の入り時刻は午後3時43分、日の出の時刻は午前8時18分です。
作品の画面ではあれよあれよと進んでいき、数分でケリがついてしまいますが、実際は結構長く、十数時間かけて、まったりと闘っていたことになるのですね。
まずは、これが一つの謎です。
いったいどうして、そんなに時間を食ってしまったのでしょうか?
グルンワルドが望んでいたのは、奇襲による速攻勝利だったはずです。
これは電撃戦のはずなのです。
雪狼の飛行攻撃によって制空権を確保。
周辺大気の気温を急激に低下させ、手持ちの冷凍兵器類の能力を最大限に発揮させます。
グルンワルド頭部型の
村内交通を遮断、氷結した河への退路を断つ。
戦車団に等しいアイスマンモスの脚で家屋を踏み潰し、村内を蹂躙、生活インフラや脱出用の舟艇を完全破壊。
家屋を放棄して逃げまどう村民を、死の雪原へ追いやる。
……と、ロンメルばりに合理的な作戦計画でした。
しかし作戦は最初の数歩であっけなく
奇襲の要諦は“夜討ち朝駆け”と申します。
グルンワルド司令官は戦闘開始時刻を三、四時間遅らせ、村民が寝静まったところを襲うべきだったのです。
目が覚めたら家が潰されて防寒具もなく雪に埋っている……という状況を作り出すことが必要でした。
しかし、あまりに早く攻めてしまった。
これも、一つの謎です。何故、そこまで焦っていたのか。
グルンワルドにしてみれば、ホルスが“迷いの森”を脱出して村に復帰し、太陽の剣の鍛造作業に取り掛かる前に村を攻め滅ぼしたい……その一心で全力侵攻をかけたのでしょう。
しかし、その焦りと、短気な性格が裏目に出てしまったのです。
その上にグルンワルド、よせばいいのに自分の姿を山上にホログラム投映か3Dプロジェクションマッピング……みたいな幻像で“俺様イメージ”を映し出して高笑い、村民の前に戦力を誇示してしまいました。
これも、なにゆえそんな無駄なことをしたのか、一つの謎です。
おそらくいつもの「俺様最高!」のマウンティング癖を出したのでしょうが、それが自滅への第一歩となりました。
時刻は日暮れ前でした。村民はみんな起きていたので、すぐに全員が、「これはホルスが警告していた悪魔の襲来なのだ。村長は否定していたけれど、それはウソで、悪魔は本当にいたのだ!」と知ったのです。
これで奇襲効果はなくなりました。
村民はただちに防寒具を身に着けて屋内に避難。雪狼の吹雪による冷凍攻撃を避けます。
そして賢明なポトムとガンコ爺さんを中心に、有志で組織されていた“村民軍(仮称)”が配置についてしまいました。
せっかくの奇襲効果が、たちまち消えてしまったのです。
村民軍総司令官のポトムは、最初の段階では「どうしようガンコ爺さん」とうろたえますが、そこはさすがに翌年には水戸黄門に出世する東野英治郎氏のガンコ爺さん、まあ落ち着けとたしなめて、すぐさま手勢を集め、現在の攻撃の脅威を見極め、敵勢力の偵察に赴くよう助言したに相違ありません。
現在、村を襲っているのは雪狼の冷凍攻撃だけだ。
それなら家屋や鍛冶場にこもることで、当面はしのげる。
おそらく各家庭に、防寒具をあらかじめ備えるよう、通達しておいたのでしょう。
“今年の冬は早いぞ……”とか言って。
まずは寒さ対策、その間に反撃準備だ。武器を集め、巨大な
さすがに冷静な判断です。
山上に投影されたグルンワルドの巨大3D映像を見た村民軍は、雪狼に続いて間違いなくグルンワルドの主力がやってくると確信することができました。
雪狼は雑魚の先兵だ。直接反撃はせず、ここは臥薪嘗胆、敵主力の侵攻が開始されたら、その足元をねらって集中攻撃、水際撃退をはかる。
ポトムたち村民軍はそう判断したことでしょう。硫黄島方式の作戦です。
そのため、しばらく村は雪狼の跳梁に委ねられ、時間が経過します。
一時間、二時間……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます