13●第三の結末①……魔女ヒルダ、そしてホルスの魔法力

13●第三の結末①……魔女ヒルダ、そしてホルスの魔法力




 そして、第三の結末は、こうです。


 “ヒルダはもともと魔女であり、固有の魔力を有していた……

  だから死ぬことはなかった”


 ヒルダは魔女だった……

 悪魔の妹になるまでもなく、本来的に魔女だった。

 しかも、“命の珠”が無くても困らないほどの、強い魔力を秘めた少女だった!?


 雪狼に打たれ、雪原で意識を失い、春が来て雪が解けるまで誰にも発見されなかったのに、難なく蘇生することのできたヒルダ。

 人間技ではありません。

 それが可能になるとしたら、こう考えるしかないでしょう。



 “ヒルダ自身に、もともと魔法力が備わっていたからだ”


 “その魔法力は、凍死を長期間防ぎ、水や食糧の補給が無くても身体の健康を完全に保つことのできる不死性すら発揮した”


 


 “命の珠”があってもなくても、グルンワルドがいてもいなくても、なんら影響されない……

 そんな、固有の魔法力を、ヒルダは持ち続けていたのです。



 ただし、ヒルダ自身は長らく、自分がもともとは普通の人間であり、……と信じていたようです。


 彼女は人間としての死を望みました。だから“命の珠”を放棄した。

 それはつまり……

 “命の珠”を手放すことで魔法力を失い、“人間に戻れる”と考えたからです。


 グルンワルドもヒルダに服従を強いるときに、ホルスの剣によって、命の珠を断ち切られ、ホルスに殺される幻影を見せて「お前はこうして死ぬ」と脅しています。(RAE42頁)

 “命の珠”を失ったら魔法力を失い、命も失うぞ……というわけですね。


 しかし、命の珠を捨てて人間になり、死を覚悟したヒルダでしたが、その体内に固有の魔法力がしっかりと潜伏しており、その力が発現して、生きながらえたのです。

 しかも、やつれることもなく、全身がピンピンした状態で!

 彼女は本質的に最初からずっと“魔女”であり、人間に変異してはいなかった。

 だから人間になれず、それゆえ、死ななかった。

 ……あるいは、“死ねなかった”のです。



 雪に埋もれて、いわば仮死状態になってから、雪解けまでの数日か数週間か……

 そういった長期間、誰かに発見されることがなかったのも、彼女に魔法力が残されていたとすれば、うなずけることです。

 ヒルダは、“人間としての死”を望んでいました。

 それも絶望の中で。

 おそらく、ひとり静かに、罪を背負って、誰にも迷惑をかけず、邪魔されることなく、変わり果てた遺体を誰かに…特にホルスに…見られることなく、ひっそりと……

 仮死状態で眠りながら、そう望んでいたならば、無意識に、自らの魔法力で、自分の身体を発見されぬよう、光学迷彩の結界で包むことができたでしょう。

 おそらく、この場合、ホルスたちは熱心にヒルダを捜索したのでしょうが、見つけることができなかったのです。すぐ目の前まで来ていながら……

 しかしヒルダは結局、死ぬことができず、後日になって目覚めます。


 そして、生き延びた自分に、いぶかしげに問いかけたのでしょう。

「どうして、あの珠をなくしたあたしが……」(RAE50頁)

 そして初めて、はっきりと悟ったのです。


 自分が本物の魔女であることを。


 ヒルダはおそらく、こう悟ったのです。

 ……これまであたしは、本当は魔力など持たない人間の女の子であって、だけど、悪魔のグルンワルド兄さんに“命の珠”を授けられ、呪いをかけられたことによって、魔力を身に着け、“悪魔の妹”を名乗っているんだ……と思い込んでいた。


 ……いいえ、そう思い込まされていたのよ! ……と。



      *


 ここで、下記のことを確認しておきましょう。



●ヒルダ、そしてホルスに、“先天的な魔法力”があったのか?


 ある程度、説明はつきます。

 悪魔グルンワルドは、自分たちの魔族界にとって有益な人材あるいは獣材を探してスカウトする、リクルート活動を行っていました。

 子分は多い方がいい、しかし何でもかんでもいいというものではありません。

 路上で芸能スカウトするハンターだって、それなりに“才能アリ”の人材を見極めて声をかけますよね。

 魔族だって同じです。

 魔法力の素養が備わっていて、それなりに鍛えがいもある、将来有望な対象でなくてはならない。

 銀色狼や大カマスがそうですし、ホルスを海岸から空中へさらった大鷲や“目のないカラスたち” (RAE24頁)がそうですね。ヒルダの子分に収まっているトトとチロもそうでしょう。

 村を襲ったネズミの集団は、ヒルダの魔力に操られたロボット兵器みたいなもので、グルンワルドの子分としては最低ランクでしょう。最後は河に飛び込んで死ぬ運命の使い捨てギミックのようですし。

 そして最近、大物ルーキーとしてグルンワルドが目を付けたのが、ホルスでした。

「なかなか見所のある奴だと聞いたから、オレの弟にしてやろうとわざわざ使いを出したのだ」(RAE55頁)と、厚遇で迎えてやろうというのです。

 誰から聞いたのか?

 間違いなく、ヒルダからです。このことはのちの章で詳述します。

 ともあれ「弟にしてやろう」というからには「見所がある」ことが理由となっていますね。

 「見所」とはもちろん魔法的素養です。魔族として育成するには、魔法を使う基本的素養が不可欠です。魔法力を受け付けない拒絶体質の普通人ふつうじんには、そもそも声などかけないでしょう。


 では、ホルスの魔法力とは?


 第一に、“超人的な運動能力”。これは作品冒頭の狼たちとの闘いで立証されていますね。

 そして、作品中で明らかになっているのは……


 二つ目は、“とんでもない高所から落ちても死なないこと”

 ちょっと笑ってしまいますが、ただの馬鹿力の持ち主ではありません。

 大鷲から雪山に落とされたとき、グルンワルドから谷へ突き落されたとき、最後にグルンワルドが滅びて命の珠が消滅し、飛行状態から氷の城の床へ墜落したとき……普通人ふつうじんなら死亡か重症のケースでもホルスはケガひとつなく、おおむね平気でした。

 落ちる途中で受け身の体勢をとり、地面に激突する寸前に、魔法の念動力が逆噴射的に働いて、落下傘降下ていどの衝撃で軟着陸しているものと思われます。

 これ、とても便利な魔法力ですね。

 ホルス君が全編、死なずに済んだのは、きっとこれのおかげです。


 なお、グルンワルドに断崖から突き落とされる場面では、背中からグルンワルドが剣で一突きしているので、ホルスはグサリとやられたようにも見えます。

 しかしこの時、グルンワルドの剣はホルスの背中の“太陽の剣”に当たってくれた(RAE56頁)ので、ホルスは“突き落とされた”だけで済み、命拾いしたわけす。

 ガンコ爺さんは「その剣のおかげで助かった」(RAE14頁)と見抜くのですが、これはオトナが見ても分かりにくい……。



 三つ目に、“動物との会話能力”があります。

 熊のコロと普通に喋っていますが、コロが人語を解しているのでなく、ホルスが熊語を解しているのですね。あるいはテレパシーに近い魔法的な生物共通言語を、いつのまにか会得しているのかもしれません。

 コロと一般の村人たちとの言語コミュニケーションは成立していないようですが、

唯一の例外として、フレップとは仲良くして、ある程度言葉が通じているのかもしれません。

 ヒルダについては……

 もちろんトトやチロをはじめ、動物たちとの会話を難なくこなしているようです。


 そして第四に、“太陽の剣を操り、雪狼に搭乗できる魔法戦闘力”が挙げられます。

 “太陽の剣”は特殊な究極魔法兵器です。グルンワルドを一撃でほふる力を持つのですから。でも、これをポトムたちが持ったら、おそらく、やたらと重いだけの、“大きな剣”でしかないでしょう。

 ただの刃物ではなく、魔法的に有効な兵器として使えるのはホルスだけであり、だからホルスは「太陽の王子」の称号を持つのであり、必然的にそれは、彼が魔法由来の能力を持つがゆえなのです。

 また、“命の珠”を首に掛けた途端、その飛行能力だけでなく瞬時にして雪狼を戦闘機として活用、グルンワルドに空中追跡戦を挑むあたり、ホルス自身に基本的な魔法力が備わってなくては不可能なことでしょう。

 フレップが“命の珠”を首に掛けても、ゆるゆると飛ぶだけであり、能力の差は歴然です。

 戦闘に直面した時、ホルスの魔法戦闘力がたちまち開花した事例でしょう。


 『太陽の王子ホルスの大冒険』をボーッと観てしまうと、ホルス君は普通の体育少年に見えてしまいますが、考えてみれば確かに一種の魔法少年であり、一般の村人たちとは明らかに行動が区別されていますね。

 なお『未来少年コナン』のコナン少年は、ホルスの系統に属するヒーローだと思いますが、魔法使いというよりは、“超人的な身体能力を備えた、突然変異的な特異体質”なのでしょう。“大変動”の戦後環境に完全適応した、ガンダムのニュータイプの“力持ちバージョン”みたいなものかと……


 ということで……


 ホルス君には、本人はさほど自覚していませんが、れっきとした魔法の素養があり、今後鍛えれば魔族界オリンピックで金メダル級の能力を発揮するルーキーであると言えましょう。


 では、ヒルダの方は……







※文中で“魔力”と“魔法力”を明瞭に区別せず使用していますが、何卒お許し下さい。

 厳格な定義分けはあると思いますが、悪魔であるグルンワルドのパワーが“魔力”なのか“魔法力”なのか、作品中にその用語が使われていないため判然とせず、混同する結果となりました。

 ここでは、だいたい、“雰囲気的”なものを魔力、“作用的”なものを魔法力と表記するようにしています。

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