88歳のキューピット

トロ

第1話

 俺が20歳の時に爺ちゃんは脳梗塞で倒れた。


 その後はリハビリに励み、多少動けるようになった。


 俺はリハビリ関係の仕事をしている。その為、退院してからは暇があれば爺ちゃんの為に歩行訓練やその他の機能回復訓練を行った。


 でも、次第に俺は仕事が忙しくなり──リハビリを行う時間がなくなっていく。


 親も介護疲れが酷く──


 気が付けば爺ちゃんはデイサービスやショートステイで過ごす事が多くなった。


 身体的な低下であまり動く事が出来なくなったからだ。でも認知症ではない。後遺症で話しにくそうだけど、話は成立する。



 あれから5年──


 爺ちゃんは特別養護老人ホームに入所している。


 この間、88歳の誕生日を迎えた。


 俺は元々、親が忙しく──爺ちゃんに育てられていた。


 その為、入所してからも週に一度は顔を見に行く事が他の人よりも多かった。


 その度に爺ちゃんは──


「おっ、来たか……ひ孫はまだか?」


 と聞いてくる。


「まだ結婚すらしてないのに無理だよ……まず相手を探さないとね?」


「そうか……見たいが無理かもしれん……」


「あっ、そうだ! 今度彼女連れてくるよ! 最近彼女が出来たんだよ? 凄く可愛い子だから爺ちゃんも見惚れちゃうかもよ?」


「そうか……楽しみにしておくよ……」


 俺は彼女を説得して、一ヶ月後に都合をつけてもらい、共に施設に向かった。



 施設に到着し、爺ちゃんのいる部屋に向かうと爺ちゃんは眠っていた。


 俺は起こすのは気が引けたので、彼女と一緒に部屋の椅子に座って待つ事にする。


「……ん……来たのか……そちらの娘さん……は?」


「前に言っていた彼女だよ。将来のお嫁さんになるかもしれないよ? いつも言ってる──ひ孫だって夢じゃないさ!」


「そうかそうか……わしが死ぬ前にお嫁さんを見せに来てくれたのか……娘さんや……この子をよろしくな……」


 彼女は頷きながら手を握る。


 そこに俺も手を乗せて3人でしばらく時間を忘れて握り合った。


 最後に爺ちゃんは彼女と何かを話していたけど。




 これが──


 俺と爺ちゃんとの最後の記憶だ。


 この2日後に爺ちゃんは亡くなった……。


 最後に会ったのは俺と彼女だけだ。亡くなる寸前に親に連絡はあったそうだが、誰も間に合わなかった。


 当然、俺も職場から急いで戻ったけど間に合わなかった。



 遅れて施設に到着すると──


 ベットには白い布を被った爺ちゃんが動かずにいた。


 白い布をどけると、眠ったように動かなくなった爺ちゃんがいた。


 泣く事がない俺でもこの時だけは自然と涙が溢れ出て来た。それと同時に子供の頃に爺ちゃんと遊んだ記憶がどんどん蘇ってきた。


「爺ちゃん……爺ちゃんに育てて貰った子供時代は俺の──……一生の宝物だよ……今までありがとう。そして安らかに……」


 周りに親族や介護士、看護婦がいる中、僕は嗚咽を堪えながらそう言う。



 後で安らかに逝ったと聞いた。


 あの時、既に爺ちゃんはもう限界だったのだろう。


 孫の中で1番可愛がってくれて俺を待っていてくれたのかもしれない。


 そして最後に俺と──彼女を見て安心したのかもしれない。


 そう思うと──


 ひ孫こそ見せてあげれなかったけど、でも未来のお嫁さんを見せてあげれたのは良かった。


 彼女はあくまで彼女だ。


 だらしない俺と結婚してくれるはずがないし、結婚の約束もしていない。する事もないだろう。


 そもそも、彼女は「」、「」と良く言っていたからね。




 ◇◇◇




 その次の日はお通夜だった。


 俺は爺ちゃん側から離れる事は無かった。


 ずっと爺ちゃんの思い出話を親族一同としていた。


 深夜になると式場に来訪者が現れた。



 俺の彼女だ。



 彼女は爺ちゃんに会い──涙を流しながら手を合わせてくれる。


「爺ちゃんと一度しか会った事がないのに涙まで流してくれてありがとう……」


「ううん、貴方の事を本当に大事にしてるのはお爺さんだけじゃないわ」


「どういう事?」


「ひ孫──お爺さんに見せてあげないとダメでしょ?」


「それって──」



 爺ちゃんは彼女と2人で話している時に何かを言ったのかもしれない。だけど、その爺ちゃんの言葉で彼女は気持ちが変わった──


 そんな事を思った。




 ◇◇◇



 2年後──


 俺は爺ちゃんの眠るお墓の前でを抱っこしている。


 僕達は菊の花を飾り、線香をあげて、手を合わせる。


「爺ちゃん……やっとひ孫見せられたよ? の子供だ。これで約束果たせたかな? 遅くなってごめんね」


 その時──


 風が巻き起こり──


 木の葉が舞った。


 俺にはそれが爺ちゃんの返事のように感じた──



 爺ちゃんは俺のだね。



 ありがとう──



 お陰で俺──今とても幸せだよ。



 そんな事を思いながら黙祷を捧げた──







────────────


お読み頂きありがとうございました。


半分フィクションです。

勢いに任せて20分ぐらいで書いたので誤字脱字などあったらすいません。


良かったと思われたら下の☆☆☆を★★★にして頂けたら嬉しいです。

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