第18話 学ランの女
2人が信号で止まっていると後ろから単車が何台かやってきた。
『おいコラ!シカトか!』
旋と珠凛はどうやら呼ばれていたらしいことにそこでやっと気づき、振り返るとすぐ後ろに族車に跨がった5人の女がいた。
眉間にしわを寄せながらこっちをにらんでいるが2人がまず始めに思ったのはそんなことではなかった。
女たちは何故か全員学ラン姿だったのだ。
短ランに長ラン、ボンタンにドカンと。あぁ、そういえば丁度ハロウィンだからコスプレかと一瞬思ったがそういうことではなさそうだ。
『いい単車乗ってんじゃねぇかよ。そのバブちょっとよこせや』
うがいでもしながら喋っているような下品な声をした女がそう言って単車を降りて近づいてきた。
『おとなしくよこしゃ見逃してやんよ。降りろ』
『誰あんた。よこせとかマジ意味分かんねーから』
旋は実にめんどくさそうに言った。
『いいから降りろっつんだよ!』
下品な声の女はそう言うと後部座席の珠凛の肩をつかんだ。
『…ねぇ、放してくれる?』
珠凛は見向きもせずに言った。旋はおでこに手をやりため息をついている。
『あーあ…』
旋がめんどくさかったのは学ラン女たちではなく珠凛の方だ。
下品な声の女は構わず凄んだ。
『あぁ!?おい聞いてんのかテメー!降りろっつってんだよ!』
女が肩をつかむ手に力を入れるとすかさず珠凛の肘が飛んだ。
『うぶっ!』
下品な声の女は鼻を押さえ1歩2歩と後ずさった。鼻血が垂れている。
『このカーディガン、新しいの。汚い手で触るなって言ったのよ。あなた耳がないの?』
そう言うと珠凛は単車を降りて鋭い目を向けた。
『あらごめんなさい。声だけじゃなくって顔も下品になっちゃったね。でも、そうね。その方がお似合いよ』
一見チーム綺夜羅の中で1番おとなしく、しっかりしていて大人っぽく女の子らしくもある珠凛だが1番危険なのも意外に彼女なのである。
仲間以外にはいつどこで何をきっかけにキレてしまうか分からない。
そうなるともう旋が止めるしかない。
だがこれがまた1度キレるとなかなか落ち着いてくれない。
『朝からツイてないなぁ~、もう…』
旋も降りていくと相手はもうカンカンだ。他の4人も降りてきている。
『オメーらケンカ売ってんのけ!』
『殺されてーのかコイツら!』
学ランの女たちは今にも2人につかみかかろうとしていた。
珠凛はかなり不機嫌そうな顔をして構えた。完全にやる気だ。
だがケンカが始まるよりも先に思わず耳をふさぎたくなる程の大きな音が鳴り響いた。
「パァ~!!」
派手な音のクラクションを鳴らし1台の車が目の前に停まった。
フルスモークの黒い車。いかにもヤバい車だ。
運転席の窓が開いていく。
『…何やってんだ?お前ら…』
どうやら学ラン女たちの知り合い、上の者のようだ。女たちは車の前に集まり急にペコペコしだした。
『いや、コイツら調子こいたバブ乗ってたんでぶんどっちまおうと思ってたとこなんすよ』
『…オメーら、この辺からもう悪修羅嬢や夜叉猫の仕切ってるエリアだってこと分かってんのか?』
学ラン女たちは何も言えずにいた。上の者は明らかにイラついた口調だ。
『テメェらもしコイツらがそこの人間だったらテメーでケツ拭けんだろーなぁ?』
車の女は徐々に語気を強めた。
『それともまさかこんなつまんねぇことであたしにケツ拭かすのか?』
なんとも言えない威圧感で女がにらみを利かせると学ラン女たちはいよいよ怯えだした。
『す、すんませんした!』
『…分かったらさっさと行け』
学ラン女たちは車の女に頭を下げるとさっさと行ってしまった。
旋と珠凛はその女を見て驚いた。
『…優子ちゃん先輩…』
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