第19話 通りすがりのリーゼント

 中学生になってすぐ旋と珠凛は不良グループの上級生に囲まれていた。


『オメーら相当舐めてんだろ。何度も何度も呼び出しバックレやがって』


 2年生の頭を張っている熊小路瞳はそう言って凄んだ。


『埋めちまうぞコノヤロー。ウチらの下に入れって言ってんだよ』


 相手は12人。旋も珠凛もさすがにその人数の上級生に囲まれると怖くて抗うこともできず一方的に暴行を受けていた。


 いわゆるシメられるというやつだ。2人は初めてのことに恐怖しながらも仲間に加わると言わなかった。


『別にさ…あたしたち迷惑かけたりしてないよ…なんでこんなにいっぱい殴られなきゃいけないのかな…』


『同感…私たちにこれ以上関わらないでほしいんだけど…』


 ボコボコにされフラフラになりながらも2人は一切意志を曲げなかった。


 熊小路はあまりにも反抗的な2人の態度に怒りが頂点に達してしまった。


『おい!バット持ってこい!』


 仲間の1人に言うと金属バットを持ってこさせた。


『オメーらがいけねぇんだからな?てめーを恨めよ?』


 熊小路はバットを振りかぶり2人に殴りかかろうとした。


 旋も珠凛も本当に殺されるかもしれないと思った時だった。


『なんだオイ。そんなもん持って何してんだ?』


 誰かが近づいてくる。


『野球なら広場でやれよ。あたしが球投げてやろうか?』


 女のようだが金髪のリーゼントという今時マンガでも見ないような髪型をしている。


『…誰だテメー』


 熊小路と上級生たちはその女の方に向き直った。


『あたしはただの通りすがりさ。どうでもいいけど程々にしとけよ、遊びは』


 女たちの1人がその顔を見て思い出したように言った。


『瞳、コイツ転校してきたっていう3年の女だ』


 ということはこの女も中学生らしい。旋と珠凛は止めに入ってくれたその女のことをしばらく見てしまっていた。


『あぁ…3年が言ってた奴か。よぉ先輩、良いもん気取んのはいいけどよ、そーゆーオメーもシメの対象なんだよ』


『あたしをシメるってことか?へぇ、そいつはご苦労なこった』


 リーゼントの女はやれやれと両手を広げてみせた。


『な、舐めてんじゃねぇ!』


 熊小路はバットを相手の顔面めがけておもいきり振り抜いた。


 旋と珠凛は思わず目をつぶってしまったが、しかしリーゼントの女は瞬時にかわし熊小路が空振りした所にカウンターのローキックを叩き込んだ。


『痛ってぇ!!』


 散々2人をいためつけていた熊小路がたった1発で足を引きずり後ずさっている。


『くそっ、おい!コイツ袋だ!やっちまえ!』


 今度は一斉に全員でかかっていった。


 リーゼントの女は壁を背にして構えた。後ろを取られない為だ。


 女たちは大降りのパンチを放っていくがリーゼントはまるでハエでも払うようにして簡単に拳を弾くと顔のど真ん中にパンチを打ち返していく。


 その後は相手に拳を振りかぶることすらさせず、1人は鼻を押さえ退き1人は腹を抱えてうずくまり、また1人殴り倒され、かと思えば次の相手を蹴り倒しと12人いた敵を全員1発で黙らせてしまった。


 最後に熊小路がもう1度かかっていったがさっき蹴られた足をまた蹴られ今度はもう立ち上がってこなかった。


『おーい。そこの2人、逃げるぞー』


 リーゼントの女は手をパンパンと払うと旋と珠凛に向かって手招きした。


『え?』


『あ、はい!行こう珠凛』


 女に連れられ旋と珠凛は一緒に逃げ出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る