第17話 厚木南

 旋と珠凛は家が近く、この2人はいつも単車で2ケツして学校に来る。


 だいたい旋が珠凛を迎えに行き、今朝もいつも通り旋のバブスリ(バブ3)で学校に向かっていた。


『なんかさぁ~…』


 時速40キロを超えない位の風を切りながら後ろの珠凛に向かって何気なく喋りかけた。


『厚木、今荒れてるんだってね。ちょっと新聞載ってた』


 この旋が知っている位のことなど珠凛はとっくに知っている。

 ベテランのアナウンサーばりに細かくかつ分かりやすく説明することができるだろう。


 そもそも厚木が荒れているのは今に始まったことではないのだ。


『そうね。最近4大暴走族の争いも収まって平和だから余計に目立つみたいね』


 厚木を中心とした地区で何かと事件が起きているのだ。


 教師への暴力事件や不良グループのリンチで重傷を負わされたという傷害事件があれば恐喝や強盗など、とにかく新聞では毎日何かしら事件が取り上げられていた。


 そんな中、何よりも多いのが覚醒剤に関する事件だ。これは老若男女問わず流行しているようで特に10代の少年少女がかなりの確率で所持していることが問題になっていた。


『…あの人元気かなー』


『あの人って?』


『何さ、決まってんじゃん。あの人だよー』


 旋は立ち話するオバサンのようなノリで後ろの珠凛の足をペチンと叩いた。



 旋と珠凛は元々綺夜羅たちとは住んでいる地区が違い最初は別の中学だった。


 厚木南中学。厚木では1番平塚よりだが平塚市ではなく、2人は最初その中学に通っていた。


 厚木南中学は不良が多く見渡せば悪そうな連中しか目に入らなかったが、旋と珠凛はそんな周りも上級生も関係なく生きていた。


 髪の毛を染めたりピアスをしたりスカートを少し短くしたりするのでさえ上級生の許可がいる。


 2人共小学校の頃から一緒に空手をやっていて、そういう意味の分からない権力や上下関係に屈しないという意志があり、それだけの力があると思っていた。


 だが、それだけでは到底どうにもならない程の大きな力と闇が厚木南に存在しているのをこの時2人はまだ知らなかった。


 厚木南中学には1つの不良グループがあり、その組織がこの学校を支配していた。


 少し目立ったり調子に乗っていると思われでもしたら問答無用でその組織から入れと声がかかる。


 そしてほぼ強制的にその仲間に引きずり込まれる。


 それは入学したばかりの新1年生ですら例外ではなく、旋と珠凛にもその手は及んでいた。


 2人はよく上級生に呼び出された。


 でもそんな時、いつも助けてくれた先輩がいた。


 あの人というのは、その先輩のことだった。

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