第13話 心配じゃない

『だからまぁ、鬼のように強くてカッコいい音鳴らして走る相模原の姫たちってことで鬼音姫を結成したんだ』


 愛羽たちはかなり長い時間をかけて樹の話を聞いていた。


『カッコいい~。樹さんってただヘラヘラしてるだけの人じゃなかったんだね!見直しちゃった』


 元々弱く不良のパシリにされていたのに、今は神奈川を代表する暴走族の総長にまでなったという彼女のストーリーが愛羽たちにはかなり衝撃的だった。


 中でも蓮華は夢中になって聞き入っていた。


 暴走愛努流6人の中で1番弱い彼女は、元々弱かったという話に共感できるものが強かったのだ。


『へぇ?なんだ哉原。まさかいじめられっ子だったとはねぇ。ふふ』


『やめなよ豹那さん!』


『…あたしはまだ何も言ってないじゃないか』


『言う気じゃん』


『なんだい蓮華。お前は哉原の側だって言うのかい?』


『豹那さんは今の話聞いて何も思わなかったの!?』


 豹那と蓮華が言い合う中、普段なら樹と1番絡んでいるはずの麗桜が静かに何かを思っているようだった。


 聞いていた全員が話の結末の切なさに適当な言葉が見つからない。


 だが、そんなの寂しいに決まっているはずなのに、樹は全く気にする様子など見せなかった。


『てゆーかオイ愛羽!誰がただヘラヘラしてる人だ。いっっつもあたしに助けてもらっといてそりゃーあんまりじゃねーか!?』


 小声で豹那が『足引っ張ってるだけじゃないか』と言いかけるのを蓮華が止めている。


『えっ!?じゃあいつもニコニコしてる人にしとく?』


『それはオメーだよ。このポニーチビ』


 なんの悪気もなく言う愛羽に樹が突っこむと麗桜がやっと口を開いた。


『でも、その優子さんって人、本当にどこ行っちゃったんだろうね。心配でしょ?』


 言われて樹は一瞬微妙な間を挟んだ。


『…まぁ、心配といや心配だけどな。元気でやってんじゃねぇかな』


 そう言うと寂しそうな顔など見せず笑っている。だがそんな樹を見て麗桜はいたたまれない気持ちになってしまった。


『わりぃ、なんか余計なことまで喋りすぎちゃったな。もうやめよう。忘れてくれ』


(樹さん…)


 麗桜はこの時あることを考えていた。

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