第6話 万引き
それからも2人はいわゆる「パシリ」として使われ、授業中に買い物に行かされたり意味もなく暴力を振るわれたり、カンパや万引きも結局やめさせてもらえず悲惨な生活を送っていた。
そんなある日のこと。
いつものように樹と優子は不良たちに命令され聴くのか聴かないのかも分からないCDを万引きしに来ていたが、さすがにもう店員も何十回と万引きされているので2人のことを完全にマークしていた。
顔を確認すると後ろからついてきて作業をするフリをしながらずーっと2人のことをチラチラと見ている。これではそうそう万引きなんぞできたものではない。
だが樹も優子もやるしかない。
できなければまたひどい目に合わされるだけだからだ。
『樹。あんたは何も盗まないで外に出てきて』
優子が提案し2人はいわゆる囮作戦に出た。
言われた通り樹は、さも今から万引きしますといった怪しい動きを見せ店員の気を引いた。
その間に優子はさっさと万引きを済ませ、さりげなく店から出ていった。
(よし。作戦成功)
そう思って樹も外に出ると、なんと外で優子が中年の女性に腕をつかまれていた。おそらく万引きGメンというやつだ。
(え?嘘…)
その私服警備員が樹を見て言った。
『君もこの子と一緒に来たわよね。悪いけど今までのことも全部分かってるから君も来てもらうから』
即席の作戦など全く意味をなさず呆気なく2人は捕まり店の事務所に連れていかれ、そこで店長と名乗る男に話を聞かれた。
『どうして盗んだの?』
パクってこいと言われたからとは言えるはずもなく
『欲しかったから』
と答えるしかなかった。
ここで不良たちの名前でも出そうものなら、それはそれは恐ろしい目に合わされるであろうことは言うまでもなく想像できた。
とりあえず今回盗んでしまった優子は自宅に連絡され親を呼ばれることになってしまった。
今回だけは警察に通報するのは見逃してくれるということらしい。
万引きしたとはいえ自分たちだって被害者だ。警察に連れていかれたって困ってしまう。
しかし連絡を受け迎えに来た優子の母親は事務所に入ってくるなり優子の前まで来るとおもいきり娘の頬をひっぱだいた。
そこに手加減など一切なく、樹も店側の人間までもが驚いてしまった。
『このバカ!あんたCDなんて聴かないじゃないの!なんで万引きなんてしたの!』
『っ…』
優子は何も答えなかった。するとすかさず2発目のビンタが優子の頬を打った。
『あんた何回も来てるらしいじゃないの!その盗んだ物どうしたの!答えなさいよ!』
優子は一瞬目を赤くしたが涙をこらえ悔しそうな顔で言った。
『…知らねぇよ…』
どうせ売られちゃったんだよ。優子の目がそう言っているのを樹は横で見ていた。
『知らねぇじゃないでしょ!あんた何したか分かってんの!?』
樹には優子の気持ちが痛い位分かった。自分たちだって好きでこんなことしてるんじゃない。やりたくないし、助けてもらえるなら助けてほしいけど、誰にも助けを求めることなんてできないから自分たちを守る為にやってる。
自分の娘が家で聴きもしないCDを何度も万引きしに来ている状況を見て、親は大人のくせにそんなことも分かってくれないのだろうか。
そう思うと樹は優子が不憫で仕方なかった。
『…あたしがやってくれって頼んだんです』
だから樹は口からポロッとこぼした。
優子の母親は樹に言われると、これ以上聞いても仕方がないと思ったのか店側に頭を下げた後優子に言った。
『もうあんたなんて帰って来なくていいからね』
そう言われて優子は言い返した。
『はい帰りませんよ!』
優子の母親はさっさと1人で帰ってしまった。
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