【ビッグ4から遠く離れて】
「はい、新部長の鍵山アズサです」
追い出しコンパも、終盤に差し掛かったころ。立ち上がった鍵山を、皆が見守っている。いつになく彼女は緊張しているようだった。
「アズサー、頑張れー」
「黙れ七郎」
一年生たちが思わず噴き出した。
「えーと、これまでこういう立場になったことがなくて、ちょっとどうしたらいいかわからないんですけど。ただ、やっぱり去年の悔しさというのがあって、あと一歩で優勝というところで、その一つを勝てるチームにしていきたいです」
拍手が起こる。三年生たちは、うんうんと頷いている。
新年の会議では、二年生四人をそれぞれ推す声があった。物静かだがしっかりと周囲を見ている会田。明るくみんなを引っ張っていけそうな猪野塚。実務をこなし、誰よりも対局の現場を見てきた菊野。そして結果的には、鍵山が新部長に選ばれた。後輩の面倒見もよく、先輩にもきちんと意見が言える。将棋に対する情熱もあり、明確な目標もある。
「頼んだよー」
「はい。安藤前部長は本来なら四年生としてゆっくりしていただきたいところですが、特別にソフトアドバイザーとして残ってもらおうと思います」
「えっ、今聞いた」
「とりあえずソフトの質問をさせてください」
「了解」
その他、副部長は猪野塚、会計には高岩が指名された。
「北陽先輩には本当にお世話になりました。そんな先輩から、お言葉をぜひ」
「あー、あるよねやっぱり。うん。あの、知ってると思うけどいろいろあって同級生がみんなやめちゃって。部長にならなきゃ仕方ない感じでなったから、歴代部長の中でも本当に頼りなかったと思うんだよね。全国でも去年やっと勝てて。将棋でみんなに教えられることはなかったけど、それでも少しは勝つための何かを伝えられたかなあ、と。本当にビッグ4がいたころとは違う、新しい魅力的な県立大将棋部になったと思います。優勝はできるかわかんないけどね、本当に楽しくて魅力的なチームだと思うから、皆にはこのまま頑張ってほしいな、と。うん、そう思ってるよ。今日はありがとうね」
北陽は、深々と頭を下げた。
こうして、ビッグ4を知る最後の一人が、卒業することとなったのである。
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