【新春-2】
公園のベンチに、二人の男女が座っていた。道行く人には恋人同士に見えたかもしれない。ただ、昔からこのあたりに住んでいる人にとっては、「懐かしい光景」だった。
昔と違い、二人の間に盤はない。
「あんまり、変わってないね」
「そうだな」
蓮真は、あたりを見回した。
「なんか……なんか変だなあ」
立川は、うつむいていた。景色にも蓮真にも、目を向けられなかった。
「用があって呼んだんだろ。何?」
「うん……今更だけど、謝んなきゃって」
「そう。まあ、そっか。そうだよな」
「ごめんね。何も言わずに、紀玄館に行って」
「そうだな、むかついた」
「だよね」
「正直、乃子や冠がいたら、県立大は優勝できたかもな。ただ、二人がいたら俺は強くなってなかったかもしれない」
「え」
「むかついたから、強くなれた。あと、絶対県立大をいいチームにしたいって思った」
「すごいね」
蓮真が立川の横顔を見ると、うっすらと瞳に涙を浮かべていた。
「いや、運がよかった。いい仲間に恵まれた」
「そっか」
「あと一年……今度こそ紀玄館に勝つために頑張るよ」
「うん。でも私は……」
「ん?」
「団体戦はもう、出ない」
蓮真は何かを言いかけて、飲み込んだ。
「乃子がそう決めたなら、そうするのがいいよ」
代わりに蓮真は、思ってもいないことを言った。
本当は、最後まで出ろよ、と思っていた。けれども、謝る決断をした友人に対して、優しさを取り戻したのだ。
ただ、どこまでも「元には戻れないことも実感した。もう二人の間には、永遠に盤はないのかもしれない、と蓮真は思った。
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