【9回戦-2】
「負け方が良くなってきたなあ、ベルナルド!」
そう言うとシバハラは、皴の深く刻まれた顔をくしゃくしゃにして笑った。
ベルナルド・バルボーザが最初に将棋を習ったのは、親でも先生でもない。近所に住むシバハラという日系二世だった。
シバハラは柔術の達人として知られていたが、多くのボードゲームを持っていることでも有名だった。子供たちに自由に遊ばせてやるため、多くの子供たちがシバハラの家に通っていた。
「親父はなあ、プロ棋士を目指していたんだよ」
シバハラは語った。地元で天才と呼ばれた少年は奨励会試験を受けたが落ちてしまった。挫折感を味わった少年は大人となり、海を渡るのであった。そして広大な大地を開拓し、異国の地で奮闘したのである。
「シバハラはプロにならないの?」
バルボーザが尋ねると、シバハラは少しだけうつむいた後、また満面の笑みを浮かべた。
「ならないね。俺は今の生き方、好きだからな」
その後バルボーザは、将棋のプロは日本にしかないこと、そして子供の頃からとても厳しい関門を潜り抜けなければならないことを知った。
いつしか彼は、日本に行きたいと思うようになっていた。プロになるほどの力がないことは自覚していた。ただ、自分の力を試してみたいと思ったのだ。
母国ではほとんど負けなくなっていた。けれども、日本には強い人々が山のようにいた。ここまで、1勝7敗。1勝を争う優勝争いの中で、確実に足を引っ張っている。
そして彼は、本局でも決断の時を迫られていた。星取りによっては、全勝ならば逆転優勝の目もあることはわかっていた。しかし、自玉が詰んでいるのだ。
「負けました」
異国からやってきた男は、深々と頭を下げた。本大会最後の投了だった。
「いやあ、さすがだわ」
安藤は、感嘆のため息を漏らした。
紀玄館-房総学院戦が終わった。紀玄館の、7勝0敗だった。最後の最後に、底力を見せたのである。
古都大学も勝利したものの、勝ち数の差で及ばない。
「惜しかったよ。すごく健闘した」
北陽は、ほほ笑んでいた。悔しい人はいるだろう。けれども、傷ついた人はいない。今回の県立大学は、皆が納得してこの結果を勝ち取った。
「とにかく、皆でおいしいご飯食べたいね」
「肉食べたいっす!」
「よし、
「がってんです!」
最後に将棋が終わった中野田が、席を立った。ほとんどの対局が終わり、会場内もざわついている。
最終的に1敗の3チームは全て勝利し、勝ち数の関係で紀玄館が優勝、そして県立大学は三位となった。
「肉くいてー」
「ぶはっ」
中野田がそんなことを言いながら戻ってきたので、安藤は思わず声を上げて笑ってしまった。
「食べに行こう、肉」
「やったね」
中野田は小さくガッツポーズをした。県立大学の冬の大会が、終わった。
9回戦
県立大学5-2宮森大学
1 会田(二) 〇
2 佐谷(三) 〇
3 大谷(一) 〇
4 鍵山(二) 〇
5 中野田(三) 〇
6 バルボーザ(一) ×
7 福原(三) ×
冬大会順位
1 紀玄館大学
2 古都大学
3 県立大学
4 房総学院大学
5 嶺光学院大学
6 海鳳学園大学
7 仙王山寺大学
8 糸島大学
9 宮森大学
10 日本海大学
冬大会個人成績
猪野塚(二) 1-1
会田(二) 7-2
安藤(三) 0-1
佐谷(三) 7-2
菊野(二) 出場なし
大谷(一) 6-3
高岩(一) 出場なし
鍵山(二) 5-4
星川(一) 出場なし
中野田(三) 8-1
閘 出場なし
バルボーザ(一) 1-8
北陽(四) 1-1
福原(三) 2-1
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