【8回戦-1】

8回戦

対海鳳学園戦オーダー

1 猪野塚(二) 

2 会田(二) 

3 佐谷(三) 

4 大谷(一) 

5 鍵山(二) 

6 中野田(三) 

7 バルボーザ(一) 



「最後は福原さんで行きます」

 安藤の言葉に、北陽はニヤリと笑った。

 どこかで、違和感もあった。自分はやはり、旧世代なのだという。

 ビッグ4を知る最後の一人。ごたごたの中で唯一残った部員。成り行きで部長になったが、もともとそういうタイプではなかったと思う。四年生としての威厳もないし、頼りにされるような将棋の強さもない。

 自分がいなくても、県立大学は戦っていける。安藤部長は、今後も見据えてオーダーを組んでいる。

 最後の大会で、一勝できた。それは嬉しかった。しかし、一勝しかできないのもまた自分らしさだ、と北陽は思った。

 三年前と同じで、優勝争いをしている。ただ、チームの雰囲気は全く違った。四年生のビッグ4が中心だったのに対して、今の県立大学は蓮真を中心としながらも、皆が考えながら運営していくチームになっている。

 ビッグ4からは遠く離れたな、と北陽はしみじみと思った。

 あとはとにかく見守ろう。北陽はそう考えながら、後輩たちの対局を見つめていた。



 勝たなければ。

 猪野塚はその思いに押しつぶされそうになっていた。

 今回の当て馬は、チームが勝つためのものではない。自分も勝ってこその作戦成功なのだ。こういう時に「当て馬同士なら勝機がある」と思われてこその、「オーダー1番」なのである。

 これまでも、意外とこういう場面で勝ってきた。それでもレギュラーになれない原因は、普段の努力不足だ。才能が足りない、とは思いたくなかった。それを確信できるほどには、まだ頑張り切れていない。

 終盤になり、一手を争う寄せ合いになった。猪野塚は、あまり終盤は得意ではなかった。全てを感覚でとらえる彼にとって、より正確な読みが要求される場面は苦手なのである。一手の間違いも許されない。その緊張の中で、猪野塚は必死に正解を探し続けた。

 すでに会田は勝利を挙げていた。作戦の半分は成功だ。ただ、その向こうで蓮真が険しい表情をしているのが見えた。苦戦しているのかもしれない。

 ここで勝たなきゃ意味がない。猪野塚は頭の中で力を振り絞った。

 そしてついに、詰みが見えた。全身から力が抜けていくのが分かった。抜けきらないうちに、何とか駒を持ち、置いた。相手が頭を下げる。

 勝った。勝つべきところで勝った。

 猪野塚は背もたれに体を預けて、天井を見上げた。

「つっかれたわー」



8回戦途中経過

県立大学2-1海鳳学園

1 猪野塚(二) 〇

2 会田(二) 〇

3 佐谷(三) 

4 大谷(一) 

5 鍵山(二) 

6 中野田(三) 

7 バルボーザ(一) ×

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