【7回戦‐2】

「次は出るから」

 安藤に言われて、猪野塚はしばらく硬直していた。

 県立大は、勝利数を争う局面に入っている。一勝でも多くしなければならない状態では、控えメンバーの出番はないと思われた。

 しかし、安藤の思惑は違った。

「えと……」

「会田君が目立ってきたからね。多分、海鳳学園は大将を外してくる」

 つまり、会田の無駄遣いをしないために、大将戦は当て馬同士で取りに行く作戦なのだ。

 今大会、二度目の出番。しかも、優勝争いのただなかでの出番だ。猪野塚はこわばった顔のまま、海鳳学園の対局を見に行こうとした。次戦に備えるためである。

「ちょっと待って」

 そんな彼を呼び止めたのは、福原だった。

「はい?」

「猪野塚君が行ったら、当て馬を出すのバレちゃう。えーと、菊野君を張りつかせるのは?」

 相手校は、三将の調子がいい。県立大はそこも蓮真で取りに行く作戦だったが、そこに当て馬を入れて他を手厚くするのも作戦の内ではある。そしてそのとき、三将で出ることになるのは菊野だ。

「そうだね。福原さんナイス。じゃあ、菊野君行こうか。できるだけ深刻な顔で」

「え? あ、はいっ」

 こうして、「次戦」に向けての作戦は着々と進行していた。



 そんな中、バルボーザは頭を抱えていた。

 詰めろと思って指した手を無視されたのだ。そしてよく読んでみると、詰めろではなかった。

 ひどい勘違いだった。そして、もう修正は効かない。

 優勝争いにおいては、一敗が大きな意味を持つ。たとえチームが勝ったとしても、致命的な一敗になりかねない。

 何とかする手段を、バルボーザは必死で探した。しかし、もうどうしようもなかったのだ。

 頭を下げたバルボーザの肩に、大谷が手を添えた。その穏やかな表情から、勝利したということが分かる。

 隣では、北陽も苦戦していた。すでに、会田には×が付いていた。

 結局県立大学は、四勝止まりになった。紀玄館との差は縮まらない。古都大学も負けなかった。

 次戦、紀玄館大学と古都大学が当たる。ここで古都大学が勝てば、県立大の優勝は厳しくなる。皆、祈るしかなかった。



7回戦

県立大学4-3糸島大学戦

1 会田 ×

2 佐谷 〇

3 大谷 〇

4 鍵山 〇

5 中野田 〇

6 バルボーザ ×

7 北陽 ×

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る