【6回戦‐2】
「ぬあっ」
会田は思わず声のした方を見た。はっきりとは見えなかったが、中野田の声であることは確実だった。そして、その声は「見落としがあった時の」声だった。
ここまで中野田は五連勝、絶好調である。夏大会、彼がいなかったのがいかに大きな損失だったのかが分かる。ただ、元々好不調の波が大きいので、どこまで好調を維持できるかが問題だった。
「ひっくり返ったかな……」と会田は思った。中野田の調子が、不調へと向かっているかもしれない。
蓮真はうまく指しているように見える。だが、三、四将はかなりの強豪で、簡単には勝てないと思われる。
正直、紀玄館戦に勝つために力を出し切った感はある。心の芯から疲れ切っていた。ただ、そういう状態でもネット将棋はやめられない、という経験を何度もしていた。会田は限界突破に慣れていたのである。
会田は、じっと耐え続けた。今自分は、警戒される存在になっている。それならば、ずっと警戒され続ける方が楽だ、と会田は考えた。できれば暴発しろ、と。
その作戦は、功を奏した。無理気味な攻めが始まる。会田は膝を叩いて、意気揚々と迎え撃った。
「これはいかんなあ」
高岩からの報告を聞いて、安藤は首を振った。
現在県立大は、蓮真が勝利して大谷が負けの1勝1敗だった。ただ、四将から六将の三人の形勢が悪かった。
特に中野田は途中でうっかりがあり、どうしようもなくなっている。今はただ粘っているという状況だ。
一敗しても、優勝争いから脱落するわけではない。残り三戦で古都大学が負ければ、他大学と一敗で並ぶ展開になる。ただ、紀玄館には大勝ちがあるため、勝ち数勝負になると県立大は厳しい。
「やばいですか」
「やばいね。どこか勝てないかな……」
「猪野塚さんが、バルはもしかしたらって言っていました」
「そうか。見に行くか」
安藤は、会場へと向かった。
六将のバルボーザは、頭を抱えたり、首を叩いたりとせわしなく動いていた。なんとか考えを絞り出そうという様子だ。
局面は押されているものの、自陣の駒をすべて捨てて入玉するような筋もありそうだった。持将棋になれば点数が足りなくなるが、相手も寄せをやめて入りに行くのは決断力がいる。入ってしまえば、色々と起こりやすいのである。
しかし、バルボーザは受けた。受けてしまった。それは、真綿で首を絞められるような展開だった。
すでに鍵山、中野田は投了した。最後まで残ったバルボーザは必死に受け続けたが、形勢は悪くなる一方だった。
バルボーザは負けた。チームも負けた。本大会初の、敗北である。
6回戦
県立大学3-4古都大学
1 会田(二) 〇
2 佐谷(三) 〇
3 大谷(一) ×
4 鍵山(二) ×
5 中野田(三) ×
6 バルボーザ(一) ×
7 北陽(四) 〇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます