【5回戦‐2】
いろいろな発見があった。閘にとって初めての全国大会。
会場には、対局する選手だけで70人がいる。実際にはメンバー表に載らない者も含めて、150人以上がいた。地方予選とは、熱気が違った。
その中でも、県立大学は特殊なチームだと思った。まず、四年生がいない。北陽はもうすぐ着く予定だが、それでも一人である。ノートをとりながら、「四年生多いなあ」と閘は感じた。テストや実験、クリスマスなど、大会不参加の理由はいろいろあるだろう。それでも最上級生が、何としてでも、と大会に参加しているのだ。
あと、県立大学は女性が同時に二人出場したが、これはとても珍しいことのようで、他大学がヒソヒソとその話をしていた。女性の姿はいくらか見かけるが、確かにほとんど出場はしていない。
閘は、二人いるのだから二人出るのは当然のように感じていた。だが、考えてみれば鍵山は全国二位の実力で、そこまで強い女性部員はなかなかチーム内にはいないだろう。そう考えると、鍵山が県立大にいることがとても奇跡的なことに思えてきた。
戦況の方は、初めて蓮真が苦戦していた。相手の嶺光学院大学は上位常連校で、昨年も県立大より上の四位だった。当然どの選手も強い。そんな中、一年生の二人は健闘していた。
大谷は鋭く攻め込んでいた。そのうえできちんと自陣にも手を入れていた。閘の目から見ても、大谷はめきめきと力を付けてきている。大会中にも成長しているような気がした。
バルボーザは、相手の攻めをうまくいなしている。角を取られているものの、打ち込まれる隙が無い。丁寧な指し方が求められるものの、ペースを握っているように見えた。
ここまで四戦全勝。絶対王者の紀玄館にも勝利した。たまたま県立大学に入り、たまたま将棋部に入った閘にとって、夢のような展開だった。いつか自分も、対局する側に行けるだろうか。そもそも先輩たちが卒業したら、全国大会に行けるだろうか。
いろいろなことを考えているうちに、中野田が勝利した。続けて、会田も勝った。
「良さそうだね」
「あ、先輩」
閘の肩を叩いたのは、到着したばかりの北陽だった。
「全勝でしょ。すごいじゃない」
「はい、嘘みたいっす。でも、皆なんか強くて」
「ちゃんとチームになった、のかな」
ちゃんとチーム。その響きが閘の耳の中に残った。ただ強いメンバーがいるだけでは、駄目なのだろう。
「その、二位になった時は……どうだったんすか?」
「あー、あのときね。作戦を徹底するという点ではある意味チームだったかなあ。でも、達成感はあんまりなかったかな。その先が見えなかったし。今年なんてさ、抜けるのは北陽ただ一人だよ」
そう言って唯一の四年生は笑った。
ビッグ4。公立校に奇跡のようにそろった強豪四人組。彼らを中心に三年前、県立大学は準優勝した。しかしその後部員が大量に退部、そしてビッグ4も卒業した。「チーム」はほぼ断絶してしまったのである。
閘はその経緯をぼんやりと聞いてはいた。ただ、あまり想像はできなかった。今出場しているメンバーも彼の目から見たら充分強いのだろうが、ビッグ4はそれ以上だったのだろう。そんな伝説の先輩たちでも成しえなかった「紀玄館越え」を、今の県立大学はやってのけた。
その瞬間に立ち会えたこと。メンバーの一人であったこと。閘の胸の内にこみあげてくるものがあった。
そして、大谷とバルボーザも勝利し、チームの勝ちが決まった。福原も勝ち、県立大学は大会初の5‐2勝ちを収めたのであった。
5回戦
県立大学5-2嶺光学院大学戦
会田(二) 〇
佐谷(三) ×
大谷(一) 〇
鍵山(二) ×
中野田(三) 〇
バルボーザ(一) 〇
福原(三) 〇
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