【5回戦‐1】

 会場全体がざわついていた。紀玄館が負けるなど、誰も想像していなかったのだ。四年生はかろうじて、「あのビッグ4がいたところ」と思ったが、三年生以下にとっては「優勝候補でもない」というのが県立大学の印象だった。

 「県立大学戦で注意するのは佐谷」、と言うのが多くの学校にとっての認識だった。中野田も名前は知られていた。鍵山も有名ではあった。しかし会田は、トップ勢に食い込んでくるとは全く思われていなかったのである。

 よく見れば一年生の大谷も二勝二敗で、健闘している。一気に県立大学は「要注意校」へと格上げされたのである。

 そんな中、一人の男だけは蚊帳の外だった。ここまで四連敗。内容もよくない。六戦目からは北陽が来るということもあり、このままでは外されてしまうという危機感があった。いや、五戦目でもその選択肢はあったはずだ。しかし安藤は、彼の名前をオーダーに入れた。



5回戦

対嶺光学院大学戦オーダー

1 会田(二) 

2 佐谷(三) 

3 大谷(二) 

4 鍵山(二) 

5 中野田(三) 

6 バルボーザ(一) 

7 福原(三) 



 県立大学は、一気に優勝が見える位置まで上がってきた。勝ち数の関係で暫定は三位だが、残り全部勝てば問題なく優勝である。しかしこのままでは、自分は何も貢献できない。バルボーザは焦っていた。

「バル!」

 そんな彼に声をかけたのはひのくちだった。

「お、おう」

「ぶちかませよ!」

「ぶ、ぶち……?」

「頑張れよってこと」

「わかった」

 閘、星川、高岩。今回三人は、まだ出場していない。そしてこの後も、出番はないだろう。大谷はすでに絶対的なレギュラーだ。自分だけが、中途半端な位置にいる。出られない三人のためにも、頑張らないといけない。

 バルボーザは頬を叩いたのち、五回戦の行われる自らの席へと向かった。

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