【4回戦-2】
レーティングで約400点差。
会田は、事前にネット上での神楽坂の将棋について調べていた。SNSでたまたま見かけたことがあり、そこで棋譜をつぶやいていたのでアカウントを知ることができたのである。
将棋推薦で入学しているだけあって、とにかく強い。これだけの点差になると、ネット将棋では滅多に勝つことはできなかった。ただ、相手は自分のアカウントを知らない。こちらは知られていない。
自分も、超高段者のような顔をしていよう。会田はそう決意して臨んでいた。実戦は、ネット将棋にはない条件がいくつもある。相手の仕草、会場の雰囲気、仲間の勝敗。様々なものが勝負に影響する。
安藤は当て馬で、負けるつもりで出ている。バルボーザにはさすがにまだ紀玄館に勝つのを期待するのは荷が重いだろう。つまり、五人で四勝しなければ勝てない計算で、県立大学は戦っている。
負けるわけにはいかない。会田は、いつになく意気込んでいた。
相手の負けるパターンもわかっている。中盤で不用意な一手から、崩れ始めるのである。もちろんそれを咎めるためには、相当な棋力が必要だ。それが自分にできるか。
できないとしても、今はやるしかない。会田は、隙ができるのをじっと待ち構えていた。
立川乃子。いまや将棋ファンならば多くの人が知っている名前である。女流アマ大会で、何度も優勝している。
小学生の頃から何度も当たって、鍵山は一度も勝つことができなかった。県では敵なしだった。しかし隣県まで行くと、必ず負けた。全国大会で当たっても負けた。
女流棋士になれると言われ、考えてみたこともある。けれども、立川がプロにならないとしたら、自分には目指す資格がないような気がした。
そしてついに、大学の団体戦で当たる日が来た。今日の立川は、今まで見たことのない顔をしている、と鍵山は思った。元々明るくはないが、しっかりと前を向いて、強い意志を持って指しているイメージがあった。けれども今の彼女には、怖さが感じられない。
もしかして、あの日以来変わってしまったのだろうか。天才小学生に、いいところなく負けたあの時から。
もちろん、それが原因とは限らない。気になるのは、松原も冴えない顔をしていることだった。二人とも、なんとなく覇気がない。まさか、いまだに蓮真に後ろめたさを感じているのだろうか。
立川には勝ちたい。けれども、なんでもいいから勝利すればいいわけではない。鍵山は心の中で叫んでいた。「元気出せよ、立川!」と。
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