【4回戦-1】

「はい、はい。わかりました」

 安藤は電話を切ると、しばらく目を閉じていた。

「北陽先輩ですか?」

 尋ねたのは、同室の高岩である。

「うん。お昼過ぎに着くって」

「五回戦は難しいですね」

「そうだね」

 部員たちは食事から帰り、この後ミーティングが控えている。部長である安藤のいる、この部屋に皆がやってくるのである。

 関東代表の二校に勝利し、一日目の県立大学は三連勝。そして明日は上位校との三連戦がある。ここを乗り切れば、優勝すら見えてくる。

 とはいえ、もちろん上位校とはどれも厳しい戦いが予想される。

「いやあ、やっぱり大学の大会は違いますね」

 今日の出来事を思い出しながら、しみじみと高岩は言った。

 高岩も、高校のときに全国大会に行ったことがある。とは言っても、上位校の中から推薦で行けるというもので、優勝したわけでも活躍が認められたわけでもない。そして、大会では一つも勝てなかった。

「普通にアマ大会で活躍していたり、プロに勝ったことあったりする人もいるからね。レベルも高いし、皆気合入っている」

 将棋ソフトを作りたくて将棋部に入った安藤にとって、全国大会で指揮をするというのは本当に予想外のことだった。そして、春大会は地区予選で苦戦していた県立大が、全国で勝利できている。不思議なものだなあ、と安藤は感心もしていた。

「なんか緊張しますね」

「いまさら? ずっとしているよ」

 安藤は明日、出場する予定でもあるのだ。緊張はピークに達していた。



4回戦

対紀玄館大学戦オーダー

会田(二) - 神楽坂(二)

安藤(三) - 冬田(四)

佐谷(三) - 松原(三)

大谷(一) - 峯井(四)

鍵山(二) - 立川(三)

中野田(三) - 国分寺(一)

バルボーザ(一) - 丹沢(二)



「あっ」

 相手校のオーダーを見て、福原は思わず声を上げた。

 オーダーが、安藤の予想通りだったのである。

 スーパーエースに当て馬の安藤。そして蓮真と松原、鍵山と立川は因縁の対決である。

「なんか怖いな……」

 チームも全勝同士。あまりにもいろいろなものが詰まった対戦を前に、福原は少し震えていた。

 そして、対局が始まる。皆が一斉に頭を下げ、時計が叩かれた。

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