【3回戦‐2】

 次は、紀玄館。

 明日のことではあるが、どうしても意識してしまう。

 すでに、会場内で何度か松原と立川の顔は見ていた。それほど感情は揺れなかった。

 もう、三年経ったのだ。

 蓮真は、とても落ち着いていた。調子もよい。相手は準優勝校のエースの一人。実績は蓮真の何倍もあった。けれども、何も恐れることはなかった。蓮真は自分の力と準備を信じていた。会田や大谷の加入により、様々なタイプとの練習対局もできるようになった。全国大会の空気にも慣れてきた。

 蓮真が乱れれば、両隣の後輩たちにも影響する。局面は難解だったが、蓮真はゆったりと構えていた。中盤や終盤の勝負になっても大丈夫。心が澄み渡っているような感覚が、広がっていた。



 鍵山とバルボーザが危うい。中野田にはそれが分かっていた。

 鍵山はともかく、バルボーザは実力不足だ。最初から苦しいことはわかっていた。

 福原も終盤になるほど苦しくなるだろう。さすがに記憶力だけで勝てる相手ではない。

 目の前に広がる混沌とした局面を前に、中野田は頭を高速回転させていた。自分が引きこんだ局面だ。大駒が全て交換され、成り駒がいくつもできて、お互いの玉が引っ張り出されている。こういう将棋は好きだ。ただ、見ている方はたまったものではないだろうな、とも思う。チームプレイに徹するなら、棋風を根本的に変えた方がいいのかもしれない。

 いまさらそんなこと言ってもなあ、である。中野田はそういう性格なのだ。普通のことはできない。

 混沌をさらに深くするような一手を中野田は指した。相手の持ち時間が切れ、秒読みになる。相手が指した瞬間に、中野田は次の手を指す。時間攻めだ。自分の持ち時間で考慮させない作戦。

 時計の電子音が、指し手をせかす。慌てて指された手で、周りの駒が乱れた。それをなおす前に中野田は指した。

 ほどなくして、中野田は必勝態勢を築いた。



 不思議な感覚だった。全国大会の大将。そんなところに自分がいる。

 そして、勝ちそうだった。

 大将にはエースが出てきにくいのは知っている。けれども全国二位のチームには、弱いメンバーなどいない。

 隣では蓮真が勝ちそうだった。他はわからない。けれどもなんとなく、チームもいい感じなのではないかと思った。

 だって、自分が勝つだろうから。

 新人王の称号はプレッシャーだった。自分より強い人はいくらでもいる。それでも、一度も負けない経験をしたことで、会田は確実に自信を付けた。

 終盤になり、会田は安全策をとった。ちゃんと受けてから、攻める。これはゲームではない。負けて失うのはレーティングではなく、チームの勝利だ。

 会田はしっかりと勝ち切った。それは、チームの四勝目だった。



3回戦

県立大学4-3房総学院大学戦

会田(二) 〇

佐谷(三) 〇

大谷(一) 〇

鍵山(二) ×

中野田(三) 〇

バルボーザ(一) ×

福原(三) ×

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