【3回戦‐1】

3回戦

対房総学院大学戦オーダー

会田(二) 

佐谷(三) 

大谷(一) 

鍵山(二) 

中野田(三) 

バルボーザ(一) 

福原(三) 



「勝負所だなあ」

 ノートを見つめながら、安藤はつぶやいた。

 ここから県立大学は、昨年の準優勝、優勝校の順に当たっていく。負けて当然の相手とはいえ、やはり負けると勢いがなくなる。

「で、こうよなあ」

 明日の初戦は、紀玄館大学戦である。安藤の読みでは、エース冬田は副将に出てきそうだった。これを蓮真に任せるかどうかが問題である。そしてずらすとなれば大将に猪野塚を入れるか、副将に安藤自身が入ることになる。

 こういう時に相談したい相手である、北陽も福原も側にいない。もちろん一晩かけて皆に相談したうえで悩めばいいのだが、今、答えが欲しかった。冬田と戦うには、半日かけて覚悟をしなければならないと感じているのだ。

 将棋部には監督もコーチもいない。安藤は部長でありながら一プレイヤーでもある。「代打オレ」は、そんなに容易く決められるものではない。

「あの、安藤先輩……」

 そんな部長に声をかけたのは、菊野だった。

「あ、ああ。どうした」

「紀玄館の1と3に書かれている人ですが、関西予選でも一度も出場していないみたいです」

「おお。部内戦とかも見た?」

「部内戦はCリーグです。それでもレーティングは1900以上あるみたいですけど」

「さすがだなあ。それでも、佐谷君に対しては当て馬だね」

 ないとは言えない。ただ、冬田で蓮真をつぶせるならばそれを避ける理由があるだろうか? そして、安藤が出てくることまで相手は予想してくるだろうか?

 答えは出ない。ただ、少し気持ちが前向きになった。一人ではないからだ。先輩や同級生はいないが、後輩たちは側にいる。

「安藤先輩、次出るんですか?」

「菊野君もそれ、考えたんだね」

「やっぱり、まともにやったら勝てない相手なので……」

「そうね、そうよね」

 安藤は菊野に対して、親指を立てながらうなずいた。



 大谷は、テーブルの下で右手を揉んでいた。

 持ち時間40分の将棋は、一局指すだけでくたくたになる。二局目の終わりには、右の方から指先にかけて痛くなっていた。

 いつもより多く指しての数が多くなっているわけではない。無意識のうちに椅子の端をつかんで、体を傾けてしまうのである。そのため、右腕に負担がかかる。

 まだ、一日目だぞ。こんなことでどうする。大谷は心の中で、自分に向けて叱った。

 将棋の内容自体は悪くない。相手は全国二位のチームの三将だが、そんなことは気にならなかった。夏の大会では房総学院大学戦で負けた。今回は勝ちたい。そういう思いだった。

 大谷は何度か右手を見つめたのち、意を決して左手で指し始めた。初めてのことだったが、そうするのが一番いいと思ったのだ。

 振り飛車の主戦場は左側である。より近い腕で、大谷は駒を操り続けた。いつもよりほんの少し、駒が速く動いている気がした。

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