【それぞれの年末-2】

「は、はい。そうなんです……」

「あら、それは残念。でも、頑張ってね!」

 中野田は唇を噛んだ。

 大家のところに家賃を持っていくと、なんとクリスマスパーティーに誘われたのである。孫が「托お兄ちゃんも来てほしい」と言ったらしい。

 大家の娘が好きな中野田にとって、とんでもなくうれしい話だった。しかし、クリスマスは全国大会で不在なのである。

「頑張り……ます」

 中野田は思った。こんなに犠牲を払うのだから、絶対に良い成績を収めなければならない。ああ悔しい。



「立川さん、楽しみだなー」

 星川は『将棋年報』を見ながらにやにやしていた。それは、プロだけでなくアマ大会も含め、一年間の記録や棋譜が豊富に載っている本である。星川が見ているのは昨年の全国大会のところだった。

「あんまり先輩たちがいるところでは言うなよ」

 部室には現在、星川と高岩しかいない。二人は一限をさぼっていたのである。

「いろいろあるみたいねえ」

「大谷君も含めてね」

「二刀流は実は絡めてなくね?」

「うーん」

 一年生たちも、蓮真や立川、そして鍵山などの複雑な事情は何となく知っていた。直接は聞けないものの、何となく漏れ聞こえてくるのである。

「佐谷さんたちはさ、三角関係よね」

「鍵山さん入れたら四角よね」

「わー」

 部室の扉がガチャリと音を立てた。二人は動きを止めてそちらを見た。

「ういーす」

 入ってきたのは猪野塚だった。二人はほっと胸をなでおろした。

「びっくりしたー」

「なになに、どしたの?」

「立川さんに会いたいって話です」

「あー。なんか不思議な存在感よね」

「ですよねー」

 サボり組の三人は、しばらくとりとめもない話を続けた。

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