女流天将戦
【アマ女流天将戦-1】
鍵山アズサは、東京にいた。
明日から、アマ女流天将戦の全国大会が開催される。鍵山は、その代表の一人なのである。
学生大会以外は、何が何でも参加、という姿勢ではなかった。だが、昨年立川が「アマ女流天将」になったことにより、自分ならどこまで行けるだろう、と考え始めたのである。
一人で来る東京。女子代表として一人で動くのは当たり前と思っていたが、今は少し寂しい。
〈着いた?〉
蓮真からのメッセージが届いた。
〈着いた〉
鍵山はメッセージを返した。やり取りはそれで終わりだった。
鍵山は、地下鉄の駅へと続く通路を進んだ。
最近は、アマの大会にテレビカメラが入ることも多くなった。優勝候補の一人として、鍵山もインタビューされた。
「将棋を始めたのはいつからですか」
「小学二年生のときです」
「きっかけは?」
「みんなとは違うことがしたくて」
強くない頃から、何度となく取材されてきた。将棋をしている女の子は目立つし、その中でも鍵山は特に目立った。それは彼女が美少女であるというだけでなく、笑わなかったからである。彼女は全く愛想がなく、謙遜せず、お世辞も言わなかった。「不愛想なアズサちゃん」は、特徴のある人物として注目されやすかったのである。
さすがに大人になり、少しは「きちんとした」対応もできるようになった。それでも、珍しい人として取材班に追われることは多い。
大会が始まり、鍵山は順調に勝利していった。そして、テレビカメラが自分と立川に集中して向いているのが分かった。「同地区出身で、学生棋界で団体戦のメンバーとしても活躍する女性」というくくりがおいしいストーリになっているようだった。
絶対に言わないでしょうけど。鍵山は思った。私たちは同じ大学だったかもしれないのに。そうならなかった理由は、絶対に言わないでしょうけど。
立川はアマタイトルを数多く獲得し、女流棋士に勝利したこともある。アマ界のスターと言ってもいい。鍵山は決して、そうなりたいわけではなかった。ただ、立川に勝ちたいのだ。
もうすぐ、決勝トーナメントが始まる。
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