【個人戦】
蓮真と鍵山は、並んで個人戦の決勝を見守っていた。対戦するうちの一人は、大谷七郎。県立大学の一年生である。そしてもう一人は美馬賢太。経済大学の三年生であり、部長であり、高校時代の大谷の先輩だった。
優勝候補の蓮真や牛原は、トーナメントの一回戦で負けていた。大谷は予選から勢いのある将棋で、強豪たちを倒し一気に決勝まで勝ち上がってきたのである。
もう一方の美馬は、トーナメントで小妻、大関という同大学対決を制して決勝まで来た。これまで個人戦で活躍したことがなく、強豪ながらダークホースとなっていた。
大谷が気持ちよく攻めていたが、美馬は決め手を与えなかった。大谷の作った成り駒が、渋滞する。
蓮真は、自分が一年生の時のことを思い出していた。初めての個人戦では、準優勝だった。全国大会には行けたが、壁も感じた。反骨神だけでは、どうしようもないレベルというものがある。
大谷がどこまで伸びるか。それは、県立大の未来に大きく関係する。蓮真は、期待しているのだ。
結局逆転はできず、大谷は負けた。
「二本とも刀折れたか……」
猪野塚がつぶやいたので、何人かがくすっと笑った。
「アー!」
大会から戻ってきた部員たちは、大学近くの店で打ち上げをしていた。優勝祝いなのだが、大谷だけは荒れていた。
「まあまあ、頑張ったじゃん」
会田が何とか慰めようとする。
「先輩! 俺はもっと勝ちたいんすよ」
「四日市でもチャンスあるよ」
「四日市! どこ!?」
ちなみに大谷は未成年なので酒は飲んでいない。ほろ酔いの安藤や蓮真は温かい目で見守っていた。
「大きな声出さないで」
「アズサ! 俺はもっと強くなるから!」
「ご自由にどうぞ」
夜が更けていく。県立大学将棋部の秋大会が、余韻も含めて終わっていく。
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