【7回戦-3】
7回戦途中経過
県立大学3-2経済大学
1 大谷(一)×-〇 大関(二)
2 中野田(三)〇-× 牛原(四)
3 佐谷(三)〇-× 美馬(三)
4 会田(二)×-〇 中谷(一)
5 鍵山(二)〇-× 小妻(三)
6 北陽(四)- 早(一)
7 バルボーザ(一)- 黄田(四)
人だかりができていた。県立大と経済大の対戦も、残り二つとなった。県立大が勝利まであと一勝としているが、経済大もまた優勝まであと一勝となっていた。
北陽は、腕組みをしていた。相手の早は、額に汗をにじませながら読みふけっていた。角を捨てて飛車を成りこんだ。勢いは良かったものの、北陽が丁寧に受けたところそれほど良くならなかったのだ。必死に攻め手を探すが、見つからない。
県立大の部員たちも見たことないほど、北陽は冷たい目をしていた。経済大の平家だけがその意味が分かっていた。これは、「ビッグ4がよくやっていたやり方」だ。年下、格下の相手を見下して威圧する。心理的に追い詰めていく。
平家は一年の時、その様子を見ていた。その時四年生のビッグ4たちは、あの手この手を使ってきた。勝つためには何でもしたイメージだ。
確かにその時に、北陽もいた。だが、最もビッグ4からは遠いという印象だった。
早は、29秒で歩を成った。周りの駒が弾き飛ばされた。
「ご、ごめんなさい」
「いいよ」
早が駒を直すのをじっと見ていた。そして全てきちんと並べたところで、と金を取った。指で、周りの駒をちょんちょんと叩く。
早はとことん追い詰められていた。ギャラリーの多さから、まだ優勝校が決定していないこともわかっていた。
いい手が突然見つかることなどない。残されたのは、どれだけ粘れるか、という問題だ。隣をちらりと見る。
黄田は、笑っていた。
バルボーザは不思議な気分になっていた。終盤になっても、どちらがいいのか全く分からない。
どこまでも続いていくかのような感覚。しかし、局面は確実に変わっている。
目の前の黄田は、ずっとうっすらと笑みを浮かべていた。形勢がいいから、ではないはずだった。バルボーザは思った。あまりに大きな一番に、心がどこかに飛んで行ってしまってのでとはないか、と。
しかし、黄田の手が乱れるわけではなかった。ひょっとして楽しいのか? とバルボーザは思った。この、絶対に負けられないという極限状態が。
バルボーザは、正直吐きそうだった。ここまでは、あまり勝敗にかかわらずに来た。位置的にも楽だった。けれども最終戦で初めて、「チームが勝つだけでは足りない」状況になった。バルボーザの勝利が、ほぼ必須条件になっていたのである。
正直、部員たちにも言えない苦労があった。異国の地にて一人で生きていくのは、大変なのである。しかし何一つ言い訳せずに、これまで頑張ってきた。良い結果を出して、前を向きたい。
気が付くと、バルボーザの唇も緩んでいた。指がしなやかに動く。もう、楽しく指すしかないと思ったのだ。
黄田が四年生だということは聞いていた。最後の戦い、色々な思いがあるに違いない。バルボーザには、それを受け止めるだけの余裕はない。だから、自分だけのことを考える。
こういうところで、勝てる人間になりたい。
バルボーザは、どれだけでも指し続ける覚悟をした。体力には自信がある。どれだけかかっても、入玉でも、持将棋でも、指し直しでも。とにかく勝つ。
負けるのか。
黄田は、心の中で自問した。
負けるのか。このまま。
ようやくつかんだこの場所で。優勝のかかったこの一戦で。
二年生のときに見た、全国大会の光景。今度はあそこで、指せるかもしれないと思った。
南米からやってきたという、一年生。将棋がきっかけで日本に来たと聞いた。ずっと怖い顔をしていたが、途中から表情が柔らかくなったのだ。
やられる、と思った。
見切られたのだ。強さを。弱さを。
入玉を目指しているのはわかった。けれども、止められなかった。
何度数えても、点数が足りない。リスクなしに取れる駒もない。
それでも。何か起こるかもしれない。相手が気を失うかもしれない。そう思って粘った。50手は粘った。
自分の目の前に、相手の駒が連なっていた。
「負け……ました」
何とか下げた頭を上げると、早の顔が見えた。真っ青になっていた。
黄田は、申し訳なく思っていた。俺が勝てば、俺がもっと勝てる人間ならば、何にも問題はなかったんだ。
一年生には、まだ未来がある。どうしても、あの光景を見てほしい。
こういうとき、涙は出ないんだな、と思った。悲しくて悔しくて、だけど、相手が強かったから、仕方がないという思いもあって。
肩に手を当てられていた。振り返ると、平家がいた。
「お疲れさま」
「いやあ、疲れたわ」
平家が泣いていた。それはきついぜ、と思った。
秋の団体戦が終わった。
7回戦
県立大学5-2経済大学
1 大谷(一)×-〇 大関(二)
2 中野田(三)〇-× 牛原(四)
3 佐谷(三)〇-× 美馬(三)
4 会田(二)×-〇 中谷(一)
5 鍵山(二)〇-× 小妻(三)
6 北陽(四)〇-× 早(一)
7 バルボーザ(一)〇-×黄田(四)
秋大会順位
A級
1 県立大学
2 経済大学
3 香媛大学
4 孝生学園
5 岡川大学
6 禅堂院大学
7 鳥口大学(降級)
8 徳治大学(降級)
B級
1 広望舎大学(昇級)
2 聖谷大学(昇級)
3 島山大学
4 高川大学
5 広山商業
6 瀬戸内大学
個人成績
安藤 1-0
大谷 4-3
高岩 0-1
中野田 5-1
猪野塚 2-0
佐谷 6-1
閘 出場なし
会田 4-2
鍵山 6-1
福原 出場なし
北陽 3-1
星川 出場なし
バルボーザ 5-2
菊野 出場なし
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