【7回戦-2】

 蓮真は長考に沈んでいた。思ったほど局面が好転しなかったのである。

 対戦相手の美馬とは同学年で、これまで何度も顔を合わせてきた。美馬は部長になった。北陽によると経済大学は伝統的に「個性派ぞろい」らしい。それをまとめながら、プレイヤーとしても出続けている。

 負けるわけにはいかなかった。前戦でチームに迷惑をかけてしまった。しかも蓮真はエースだ。安藤に部長を任せている以上、プレイヤーとしての使命を果たさなければならない。

 どこかで、冬のことを考えていた。全国大会に行けるものだと思っていたのである。けれども、予選を勝ち抜かなければならないのだ。蓮真は、皆を四日市に連れていくために勝たなければならない立場なのである。

 攻めたい気持ちを抑え込んだ。千日手も視野に入れ、自陣に手を入れる。今度は、美馬が長考する番だった。



 鍵山は顔をしかめていた。相手は角を引き、二枚の銀を出てきた。嬉野流と呼ばれる戦法だ。

 部内にこの戦法を使う人はいない。ネットでは何回か対戦したことがあるものの、面と向かって指されるのは初めてだった。

 前戦で初めて負け、それがチームの負けにもつながった。五将ということは、相手校のエースと当たることはほぼなかった。全勝しなければいけない立場だったのに、と鍵山は悔やんでいた。

 とはいえ、まだ優勝のチャンスはある。絶対に勝たなければならない。が。

 形勢判断もできない、よくわからない局面になっていた。鍵山は、こういう形が嫌いだった。矢倉や角換わりの、均等のとれた美しい形が好きなのだ。

 とはいっても、将棋は一人で指すものではない。相手が望まなければ、美しい形にはならない。そもそも、何を美しいと思うかは人それぞれだろう。

 鍵山は、相手の攻めをいなす作戦を採った。たとえ一か所を攻めつぶされても、玉が詰まなければいいのが将棋というゲームだ。幸いにも、「変な戦法」自体は中野田との対戦で慣れていた。変な戦法を使う人は、計画通りに攻められた時に少し気持ちが緩む。そこに、隙ができる。

 相手が気持ちよく攻めている間に、鍵山は優位を築いていった。



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