【7回戦-1】

7回戦

対経済大学戦オーダー

1 大谷(一)- 大関(二)

2 中野田(三)- 牛原(四)

3 佐谷(三)- 美馬(三)

4 会田(二)- 中谷(一)

5 鍵山(二)- 小妻(三)

6 北陽(四)- 早(一)

7 バルボーザ(一)- 黄田(四)



「5勝すれば勝てる。負けても優勝の目があるのは、むしろラッキーだったかもしれない」

 安藤は、部員たちに精いっぱいの言葉をかけた。もちろん、本気でラッキーだと受け止める部員はいなかった。

 前戦で負けた四人は、浮かない顔をしていた。当然、責任を感じてのことだ。気持ちを切り替えなければいけないのはわかっている。それでも、簡単にそんなことができるはずもなかった。

 一応、副将に高岩を入れるオーダーも考えた。エース牛原を外し、六将戦が手厚くなる。ただ、他の負担が大きくなりすぎると判断した。それよりは北陽とバルボーザを信じて、上五枚で二敗以内に抑えるしかない。

 時間が来て、それぞれが自分の席に向かう。ただ一人、中野田だけがいつもと同じ表情をしているように安藤には見えた。



「俺が勝つしかない」

 中野田は、静かに気合を入れていた。

 チームが優勝するには、5勝するしかない。経済大学相手には、かなりきつい条件だった。そして、中野田の相手はエース牛原。蓮真以外で彼に勝つことこそが、県立大が強くなるためには必要なのだと思った。

 チームは、良くなっている。八人しかいなかった頃を思えば、夢のようである。ただ、まだ隙があった。

 中野田は、三手目に7五歩と突いた。早石田を目指す手である。激しくなりやすい戦法で、自分らしい戦いに引き込む。決して臆せず。中野田は覚悟を決めていた。



 四年生で初のレギュラー。そして優勝のかかった一戦。黄田の緊張は極限に到達していた。

 相手は一年生のバルボーザ。留学生だが、日本に来てから将棋を学んだという感じではなさそうだった。ここまでの成績は4勝2敗。決して弱くはない。

 黄田は、二年生の時から三連覇を経験した。あのビッグ4がいた県立大が、B級に落ちたのを見た。常に控えとして、見てきた。

 ここで勝たなければ、意味がない。

 見た目に反して、バルボーザは綺麗な将棋を指す。角換わりのよくある形になっていた。黄田は数秒目をつぶって気持ちを整えた後、歩を突き捨てた。開戦である。

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