【6回戦‐2】
「なんかやばそうっす」
報告に来た閘の眉毛が極限まで下がっていた。あまりの表情に、急遽安藤たちは会場に向かった。
真ん中の方が、明らかに空気が悪かった。蓮真は目を見開いて盤面を凝視していた。会田は、額に手を当てて口をへの字にしていた。鍵山は頭をかきむしりながら小刻みに何度もうなずいていた。
三人とも、形勢は悪い。誰が見ても悪かった。
大谷と中野田は勝利に近づいていた。北陽もこのままいけば勝てそうな展開だった。ただ、バルボーザは絶望的な状況だった。駒損がひどく、手も足も出ない局面。
安藤の中では、蓮真・会田・鍵山が三人とも負けるという想定は全くしていなかった。どういう並びを持ってこられても、誰かは勝てるという三人のしたつもりだった。しかし、想定外のことは起こってしまうのだ。
蓮真の相手は一年生ながら全くものおじせず、全勝の勢いそのままにのびのびと指しているように見える。
油断していた。安藤は思った。決して一人一人が手を抜いたわけではない。けれども接戦がなかったことで、何となく勝てる空気になっていた。しかし対香媛大学戦はいつも接戦で、負けてもおかしくはない相手だったのだ。
考えてみれば、一年の春に全敗して以来、県立大は地区リーグではほとんど負けなかった。経済大とは「ライバル」として常に一位二位を分け合ってきたが、それ以外のチームとは差がついているような錯覚を持っていた。
特に蓮真は、めったなことでは負けないと思っていた。けれども、相手校にだって「急成長するエース」はいるかもしれないのだ。
一年生の控え三人は、特に不安そうな表情をしていた。彼らはまだ、県立大が地区大会で負ける姿を知らないのだ。
「まじか!」
対戦結果を確認して、黄田は思わず声を上げた。
「これは予想外だった」
牛原は冷静だった。絶対的エースは、最初から全部勝つつもりだったからである。
6回戦、県立大学は負けた。これにより全勝が経済大、1敗が県立大と対香媛大となった。勝ち数の関係で対香媛大には優勝の可能性がない。そして県立大が優勝するには、5勝が必要となる。経済大は、4敗まではしてもいいのだ。
これは、作戦上でも大きな意味を持った。単に勝つだけならば、県立大は副将に当て馬を入れる可能性もあった。エース牛原に中野田を当てない作戦である。しかし5勝しなければならないとなると、当て馬で1敗するのは痛い。安藤や福原、猪野塚が出てくることもほぼない、と経済大の面々は考えていた。
「ああ、なんか体が震えてきたわ」
「落ち着け。どっちにしろ勝負は勝つしかないんだから」
黄田にとっては、初めての県立大戦、そして初めての優勝のかかった一戦だった。緊張はどうしようもなかった。それでも何とか気合を入れて、彼は最終戦の席へと向かった。
6回戦
県立大学3-4香媛大学
1 大谷(一)〇
2 中野田(三)〇
3 佐谷(三)×
4 会田(二)×
5 鍵山(二)×
6 北陽(四)〇
7 バルボーザ(一)×
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