【6回戦-1】

6回戦

対香媛大学戦オーダー

1 大谷(一)

2 中野田(三)

3 佐谷(三)

4 会田(二)

5 鍵山(二)

6 北陽(四)

7 バルボーザ(一)



 胸騒ぎがした。

 北陽は、「どうしても勝たなければならない」と思った。直観的に。

 チームの雰囲気はいい。今回は接戦もなく、順調に来ている。一日目のトラブルも、それほどの損害がなかった。

 相手は前戦で経済大学に負けた香媛大学。最近は県立大学をかなり苦しめている。「地力がついたチーム」というイメージだった。

 皆、顔つきがいい。まだ、全然諦めていないのが分かった。

 前戦、負けてしまった。こういうところで、信頼が築けない。「最後まで、『本当のレギュラー』にはなれなかったな」と北陽は思っていた。夏島や覚田といった先輩たちは、エースではないがしっかりとレギュラーの役割を果たしていた。自分は、その域まで行けなかった。後輩に恵まれたおかげともいえるが。

 安藤や福原も成長したし、猪野塚も頑張っている。バルボーザは「本物のレギュラー」になりつつある。

 なにより北陽が嬉しかったのは、誰もやめないことだった。この三年間、一人も退部していない。皆、将棋部が好きなのだろう。ビッグ4の時代は、全然違った。多くの部員がやめたし、衝突もあった。北陽も、辞める勇気がないから残っただけだ。

 それでも。あの緊張感も、やっぱり必要だったのだと思うことがある。今の県立大将棋部には、「実力通りの結果」を受け入れてしまうようなところがある。ビッグ4たちの、ギラギラとした「何が何でも勝ちをもぎ取る」という熱さはない。どちらかというと、追いかける立場の経済大や香媛大の方にその熱さを感じる。

 北陽は、一度出た銀を引いた。定跡の範囲内だったか、出る手もあるので迷うところだった。ただ、引く手の方が自分らしいと思った。この勝負は、長引かせてでも勝つ。強い気持ちで、指し手を続けた。



 目の前が真っ暗になりそうだった。

 端攻めをされてみると、全く受かっていなかったのだ。

 玉は遠い。すぐに寄せられることはないだろう。ただ、駒損は避けられない。

 こまで4勝1敗。春はレギュラーですらなかったことを考えれば、上々の出来と言えるだろう。それでもバルボーザは、決して満足していなかった。全国大会で、上には上がいることを思い知らされたからだ。部長が七将に指名したということは、確実に勝つことが求められている。それなのに、すでに1敗している。

 そして、また。考えれば考えるほどに、形勢は不利になっていた。自分のことが嫌いになりそうだった。それでも、チームのために粘れるだけ粘らなければならなかった。時間を使い、なんとか逆転の道筋を探す。

 幸いにも、隣の北陽は勝ちそうだった。下二人がともに負けるとチームとしては苦しい。空気も重たくなる。

 チームは何とか勝てるだろう。バルボーザはそう考えていた。

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