【5回戦‐1】

「福原さん」

「えっ、あ、うん、何?」

 大会一日目の夜。いつものように福原は鍵山と同じ部屋だった。福原は当日入りなので、昨夜は鍵山一人だった。

「今日、どうでした?」

「どうって……」

「私は対局に精いっぱいでよくわからなかったから。チームの雰囲気とか」

「悪くはないと思う。ただ……」

「ただ?」

「ちょっと、危なっかしいかなって」

「危なっかしい?」

「春は接戦だったでしょ。その分緊張感もあったっていうか。今回は負けない感じがあるから、明日急にきつくなって大丈夫かな、って」

「そうですね……」

 県立大はトラブルがありながら、一日目をチーム全勝、23勝5敗で乗り切った。勢いがあり、雰囲気もいい。

 ただ、鍵山には不安があった。自分は勝って当たり前と思われていないだろうか? もちろん勝つつもりではあるが、勝てるとは限らない。「負ける想定で」作戦が組まれていくだろうか、と思うものの、直接部長に聞く勇気はない。

 福原は安藤の側近のような存在になっている。彼女がしっかりしていれば大丈夫、という思いが鍵山はあった。

「あ、気にしないでね。このまま圧勝するような気もする」

「はい」

「電気消そうか」

「はい」

 夜の十一時半。二人は瞼を閉じた。



5回戦

対孝生学園大学戦オーダー

1 大谷(一)

2 中野田(三)

3 佐谷(三)

4 会田(二)

5 鍵山(二)

6 北陽(四)

7 バルボーザ(一)



 先手になった蓮真は、20秒ほどしてから初手を指した。

 大会二日目が始まった。ここまで全勝は県立大、経済大、香媛大の三校。5回戦では経済大と香媛大の直接対決があるので、全勝は二チームに絞られる。

 昨日は、何をしてもうまくいく感じがした。チームも苦戦はしていない。メンバーも揃い、いい戦いができていると感じていた。

 そして、隣が中野田だと落ち着くという事実も、受け入れざるを得なかった。猪野塚の場合、どうしても心配になる。二人とも落ち着きがないのは同じだが、中野田は常に強気なのである。

 ほどなくして、蓮真は優勢になった。こうなればだれにも負けないという自信が、今の蓮真にはあった。


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