【4回戦-2】
「結局どーなってんのよ」
黄田は、大げさな手ぶりで嘆いてみせた。
「県大らしいかもね」
平家はノートを見ながら応えた。
黄田は早々と勝利して、控えメンバーたちのところに来ていた。経済大はここまで好調で、皆の雰囲気も明るい。ただ、ライバルの動向は皆気になっていた。
「初戦は舐めプかと思ったら、三戦目でそろえてくるし。で、今度は北陽外しだろ? 結局どうするつもりかな」
「結局北陽は完全なレギュラーじゃないんだろ」
「寂しいねえ」
二人と北陽は同じ学年である。会えば話し合う仲ではあった。ただ、県立大の四年は元々少しとっつきにくいメンバーが多く、積極的な交流はなかった。そして気が付いた時には北陽一人になっていた。
「バルボーザ君はずっと出ている。こっちの方が今は信用されているのか」
「顔が強そうだもんな。オモプラッタとかできそう」
「何それ?」
「格闘技の技」
「ああ、できそう」
レギュラーは譲ったとはいえ、平家は八人目のメンバーとして常に出るつもりで準備はしていた。そのため、他校の構成はしっかりと頭に入れてある。それは、黄田にアドバイスができるように、という準備でもあった。
「なんか一年生も出てたじゃん? どんな感じ」
「完全に経験させるため。たぶんうちには当ててこない」
「そっか。安藤、福原はあるか」
「そっちはある。あ、でも高岩君はあるかもしれないのか。牛ちゃんはずしで」
「あー。ま、何にしろ俺はバルボーザ君ね」
「まず間違いなく」
黄田は空を見上げた。ここまで四連勝。初めてのレギュラーで、きちんと役割を果たしている。そして、県立大戦で負ければおそらく最後の大会になる。勝てけば、まだ全国がある。
「明日も頑張るか」
「そうだな」
二人は立ち上がり、並んで歩き始めた。
詰み筋が見えたとき、猪野塚は思わず声を出しそうになった。ここまで苦しい局面を耐えに耐えてきたのだ。奇跡的に、相手玉を詰ませる持ち駒がそろった。
隣では、中野田がボロボロになっていた。たまにあることだったので、驚きはなかった。ただ、焦りはあった。蓮真は優勢だったが、他のメンバーについてはわからない。北陽に代わって出て、敗戦投手になっては目も当てられない。
何度も詰みを確認した。そして、力強く駒を打った。
間違っていなかった。
勝利した猪野塚は、首を伸ばしてあたりを見回した。大谷も会田も勝ちそうだった。チームも大丈夫だろう。
猪野塚は、覚悟していた。おそらく出番は、これで終わりだと。残り三戦は、ベストメンバーで行く。それを少しでも悟らせないための作戦が、「猪野塚登板」だったのだ。
来年こそは。その思いを押し込めながら、猪野塚は満面の笑みで仲間たちの元へと駆けていった。
4回戦
県立大学5-2禅堂院大学
1 大谷(一)〇
2 中野田(三)×
3 猪野塚(二)〇
4 佐谷(三)〇
5 会田(二)〇
6 鍵山(二)〇
7 バルボーザ(一)×
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