【4回戦-1】

4回戦

対禅堂院大学戦オーダー

1 大谷(一)

2 中野田(三)

3 猪野塚(二)

4 佐谷(三)

5 会田(二)

6 鍵山(二)

7 バルボーザ(一)



 いつもよりも盤が明るく見えた。

 中野田は、調子のよさを感じていた。二局とも、危なげなく勝てていた。朝からいろいろとあったが、今は集中てきていた。

 将棋に割ける時間は減った。公務員試験対策は、とても忙しいのだ。それでも弱くなっているという気はしなかった。心が、研ぎ澄まされていた。

 隣では猪野塚が、明らかに緊張していた。当然プレッシャーがあるだろう。中野田は一年からずっとレギュラーだったので、そういう気持ちが分かるわけではなかった。ただ、猪野塚にはどうしても頑張ってほしいと思っていた。

 猪野塚は、部内で唯一無二の存在だ。とにかくいつも前向きで明るく、誰に対しても優しい。それでいて将棋もしっかり勉強している。気持ちだけで言えば、レギュラーになってほしいメンバーだ。

 ただ、やはり団体戦は勝てなければ意味がない。大谷やバルボーザが入ったことで、猪野塚は今年もレギュラーになれなかった。

 対局が始まり、駒組が進んでいく。猪野塚がちらちらと中野田の局面を覗いていた。もっと集中しないと、と中野田は思ったが、よくよく盤面を見るとおかしなことに気が付いた。勢いよく飛び出していった銀が、どうしても銀ばさみになってしまうのである。猪野塚はそのことに疑問を持って、こちらを見ていたのだ。

 調子が良すぎて、勢いが余ってしまった。

 中野田は、突然の長考に沈んだ。



 星川は、六将の対局をじっと見ていた。

 鍵山は、じっくりと組んだうえで攻勢に出ていた。どんどんと有利になっていく。

 福原派の星川だったが、将棋に関して言えば鍵山ファンだった。派手ではないが、確実に勝利を狙っていく力強さがある。

 鍵山はここまで全勝、ポイントゲッターの役割をしっかりと果している。

 星川は、自分がそこに座ったとしたら、と考えてみた。そんなことはないと思っていたが、今日はもう少しで出場するところだった。彼の名前は北陽とバルボーザの間にあり、出るとしたら六将だっただろう。

 相手の六将は、おそらく自分より強い。形勢が悪くなり、投了が近づいた時のことを考えると胃が痛くなる。県内交流戦のときでも、本当にきつかった。しかも星川は、メンバー内で唯一全敗だった。

 いつか出ることがあれば、やっぱり勝ちたい。星川は思った。そのために、仲間が勝つところをしっかり目に焼き付けておこう。そう誓って、星川は観戦を続けた。


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