【3回戦-1】

3回戦

対岡川大学戦オーダー

1 大谷(一)

2 中野田(三)

3 佐谷(三)

4 会田(二)

5 鍵山(二)

6 北陽(四)

7 バルボーザ(一)



 北陽は大学についたその足で、対局会場に向かっていた。安藤から「間に合うなら出れますか?」と連絡が届いた時、正直悩んだ。朝からトラブル続きで、とてもコンディションがいいとは言えない。しかし自分が部長でもここは出すだろう、と思った。せっかく2戦目まで「困惑させるオーダー」を組んだのだ、3戦目に自分が出ることによって、より他校を迷わせることができるだろう。

「あ、北陽さん、お疲れ様です」

 廊下にいた福原が、頭を下げた。

「あ、うん。会場3号室だよね」

「はい」

「ありがとう。行ってくる」

 北陽にとっては、これが最後の地区大会だった。ビッグ4たちと、そして蓮真たちと戦ってきた4年が終わる。本来はあるはずの感慨が、あわただしさの中に消えていく。

 すでに他の6人は着席していた。ノートを持った1年生たちもいた。

「間に合った。よかった」

「お疲れ様です」

 五将の鍵山が、軽く会釈をする。それを見て七将のバルボーザも頭を下げた。

「いやあ、遅れちゃった」

「先輩が来たなら安心です。絶対勝てますね」

「あら鍵山さん、そんなお世辞言うようになって」

 北陽は微笑んだ。

 鍵山の存在には、北陽はとても感謝していた。何より、蓮真に笑顔が増えたことが大きい。蓮真は、孤独だった。誰かと仲が悪いとか、性格に難があるわけではない。彼は、仲間を失った状態で入部してきたのである。一年の頃は目がぎらぎらと光っていて、常に獲物を求めているようだった。

 鍵山は、そんな蓮真の味方になった。彼女もまたぎらぎらとした目をしていたが、「同類同士」のつながりが、二人の絆になっているように見えた。鍵山は後輩たちの面倒もよく見た。

 県立大学がここまでこれたのは、鍵山の功績が大きい。

 大会が終わったらきちんと感謝を伝えよう、北陽はそう思った。



 いい感じだ。指しながら、バルボーザは手ごたえを感じていた。 

 ここまで二連勝。危なげなく勝ってきていた。

 全国大会を経験したことで、地区予選の下位校相手なら「まだまし」と思えるようになった。実際、それほど強い相手とは当たっていない。運よく、「リアルな七番目同士の戦い」になっているのである。

 正直なところ、今大会は七将に指名されるとは思っていなかった。北陽を七将にして、全勝を目指してもらうのではないか、そう思っていたのだ。しかし安藤は北陽を六、バルボーザを七将にした。それだけバルボーザに、確実な勝利を期待していると言える。

 菊野や高岩は負けた。やはりまだ、レギュラーとの差は大きい。そんな状態で、自分が確実に信頼される存在にならなければ。バルボーザにはそういうプレッシャーもあった。

 北陽も間に合い、ベストメンバーで挑んでいる。どうしても「圧勝」しなければならない一戦。駒を進めるバルボーザの指には、どんどんと力が加わっていった。

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