【2回戦-2】

「やっぱ苦しそうだったなー、そうだよなー」

 大会会場から近い、中庭。控えの選手がよく集まる場所で、猪野塚はぶつぶつ言いながらぐるぐると歩き回っていた。

「お、落ち着こう……」

 菊野が心配そうにそれを見つめている。だが、彼にも猪野塚の気持ちは分かった。後輩が初めて大会に出るのだ、何とか乗り切ってほしいのだ。

「二刀流も変だったすよね」

「攻めすぎだよね」

 閘と星川は、むしろ大谷のことを心配していた。一年生たちにとって、大谷は誇れる同級生エースなのである。彼らの目にも蓮真や中野田は特別な存在に映っていた。部を支えてきたという歴史の重みが、オーラとなって感じられた。大谷は一年生で、そこに食らいついてレギュラーとして活躍している。

 鍵山を巡る争いに関しては、誰の目から見ても大谷の負け戦である。しかしそれも含めて、同級生たちは大谷を応援しているのである。

 そんな大谷が苦戦している。閘と星川は目を閉じて祈り始めた。

「こ、これ何?」

 会場から戻ってきた福原が、その様子を見て戸惑っている。

「念を送っているみたい」

 安藤はノートを眺めながら冷静に答える。

「そうなの」

「まあ、二人は苦戦しているけど他は大丈夫みたいよね。次はベストオーダーで行けそうかな」

 安藤は部長として、一人一人の調子に一喜一憂していられなかった。特に今回は、突然のメンバー欠員に対処しながら、当初とは違う作戦を実行しなければならなかったのだ。

「北陽さん間に合いそうなんだ?」

「うん。バス乗れたって」

「じゃあ、六将で?」

「そうなるね」

 三年生二人は淡々と話し合いを進めていった。蓮真と中野田は絶対的レギュラーで、控えとなることの多かった二人は自然と協力体制を築いていった。安藤はデータ管理が得意で、福原は記憶力が抜群だ。相手校のデータなど、福原はノートの何ページにあるかまで指摘することができた。

「中野田、鍵山勝ちです」

「お、いいね」

 菊野が結果速報を届ける。交代で猪野塚が対局会場に向かった。部員が増えたために生まれたローテーションである。

「会田君かバル君が勝てば」

「そうね、佐谷君はまあ安心だし」

「ただ、経済大怖いよね……」

「ま、いっつもだからね」

 その後、会田とバルボーザが勝利し、チームの勝ちが確定した。大谷、高岩は負け、蓮真は勝利した。

「経済大は7‐0です」

 最後の報告役となった星川が言った。一同の表情が少し引き締まった。経済大は第一戦でも全勝だったのである。勝ち数で言えば3点の差がついた。

「まあ、チームが負けなければいいんだけど」

 安藤は、首をかしげた。何かがかみ合っていない気がしたのだ。



2回戦

県立大学5-2徳治大学

1 大谷(一)×

2 高岩(一)×

3 中野田(三)〇

4 佐谷(三)〇

5 会田(二)〇

6 鍵山(二)〇

7 バルボーザ(一)〇

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