秋大会

【1回戦-1】

 蓮真は目を覚ました。ひどい雨音だった。

 窓に近づく。まだ外は暗かった。水滴が滝のように流れていた。

 同室の星川はまだ寝ていた。蓮真はスマホで、ニュースを確認する。広い範囲ですごい大雨が降っているとのことだった。交通機関にも影響が出ている。

「会場行けるかな……」

 ホテルから大会会場までは路線バスで向かうことになっている。バスが止まったら、歩いていかなければならないだろうか。

「ン?」

 蓮真は、何かを忘れている気がした。そしてしばらく考えて、思い出した。

「四人!」

 部員のうち四人は、当日入りすることになっていた。しかし調べてみると電車とバスは動いていなかった。

「ええ……」

 レギュラーのうち中野田と北陽と会田が、着かないかもしれない。

 早く安藤たちに知らせたかったが、時計はまだ五時。起きるには少し早い。どうしようもないので布団にもぐった蓮真だったが、寝ることはできなかった。



「しょうがないね……」

 安藤は深いため息をついた。

 結局雨脚は衰えず、四人は会場に到着することができなかった。路線バスは動いており、なんとか宿泊組は会場にたどり着くことができた。

「遅らせてもらえないんですか?」

「県内の交通機関は動いているからダメだって。まあ、規定にないからしょうがないかな……」

「そんなことってあります?」

 大谷は両手を振り回しながら怒っていたが、どうしようもなかった。確かに大雨なのだが、会場付近は比較的ましなのだ。「県外から来られないから」で大会スケジュールが変わることはなかった。

「やっぱり前日入りが正解だね……。まあ、初戦はここにいるメンバーで戦おう」

 安藤は笑顔を見せたが、内心は焦っていた。今回の大会では「圧勝」というテーマを掲げていた。全国で順位を上げるには、地方大会で苦労している場合ではない。春からの成長のあかしとして、「全試合5-2以上の勝利」を目標としていた。

 しかし、初戦から北陽と中野田と会田がいない。幸いにも県立大学は前回優勝校のため、最下位から当たっていく。初戦はベストメンバーでなくとも勝てるはずの相手だった。

「で、どうするのさ」

「……作戦を変えよう」

 安藤は蓮真と二人で、離れたところでオーダーの相談を始めた。レギュラーの代わりに出る三人のうち二人は安藤と猪野塚ということですんなりと決まった。残りの1人をどうするかである。

「ピンチを生かして、これで行こうと思うんだけど」

「いいんじゃないか? 経験を積ませることにもなるし」

 みんなの元に戻ってきた安藤は、菊野の肩を叩いた。

「七人目、出てね」

「えっ、えっ」

「あと、二戦目は高岩君ね。あ、四人がついても出てもらう予定だから」

「うえっ」

 こうして、県立大学の作戦が決まった。



1回戦

対鳥口大学戦オーダー

1 安藤(三)

2 大谷(一)

3 猪野塚(三)

4 佐谷(二)

5 鍵山(二)

6 バルボーザ(一)

7 菊野(二)

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