【決戦前-2】

「六回目、か」

 蓮真は古い雑誌を見ながら、つぶやいた。

 まだ三人が子供だった頃。西日本大会に参加したときの写真が、将棋誌に載った。決して大活躍したわけではなかったが、「ちびっこ三人組」は目立っていたのである。

 地区大会は六回だが、全国も合わせると八回、蓮真は県立大学の団体戦を戦っていた。もうすでに、「三人組」を越えていた。

 たった八人での戦いだった一年生。全国大会まで行った二年生。そして、部員が十四人になった三年生。様々なことを経験してきた。

 四年生になれば忙しくなって、全力で将棋に向き合うことはできなくなるかもしれない。今度の大会こそ、最大のチャンスだ。

 蓮真は雑誌を本棚にしまった。そして、旅の支度を始めた。



「た、大変っす!」

 部室に入ってくるなり、ひのくちは叫んだ。集まっていた部員が、一斉に視線を向ける。

「どうした」

 猪野塚が訪ねた。

「な、中野田さんが小さい女の子連れて商店街歩いていました!」

 二年生以上は目をぱちくりさせていたが、星川と高岩は口をあんぐりと開けて驚いていた。

「あー、そうね。閘君は知らなかったのか」

 安藤がにやにやしながら言う。

「え、なんすか」

「それね、大家さんの孫だよ」

「大家さんの? なんで中野田さんが?」

「まあ、面倒見がいいんじゃない?」

「すごいっすね。俺、大家さんの顔も知らないっすよ」

「下宿みたいな感じだからなあ。そばに女の人はいなかった?」

「いなかったっす」

「じゃあ、そっちはどうなんだろうなあ」

「え、え、どういうことなんすか?」

「まあ、みんな知っているから言うけど、中野田君は大家さんの娘が好きなんだよ」

「びえー」

「温かく見守ってあげて」

 そこに、旅行鞄を抱えた蓮真が入ってきた。

「え、何? なんかあったの?」

「中野田君が小さい女の子と歩いていたって」

「ああ、そういうこと」

「さすが佐谷先輩動じない!」

「大会前だし、そういう感じなら心も安定しているかな?」

「よし、集まったね。出発しようか」

 部員が十人集まり、安藤の号令で一同は部室を出た。これから高速バスに乗って、大会の現地入りをするのである。

 北陽、中野田、福原、会田の四人は、授業や研究室の用事の関係で当日入りとなる。

「大家さんの娘……」

「なんか漫画みたいだな!」

「父親になるる覚悟で公務員目指してたんだ」

 道中しばらくの間、一年生たちは新たに知った中野田の話題で盛り上がっていた。

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