【経済大学将棋部-2】

「ああーん」

 家で大関は頭を抱えていた。ハードディスクドライブがいっぱいだが、録画したいものはたくさんある。しかし消したくない番組だらけである。

己李斗きりとさあ、ネットで見ればいいじゃん」

「それはそれ! 録れるもんは録るの」

 他の二年生たち三人は、携帯ゲームで協力プレーをしていた。入学時から四人は仲が良く、大関の家はたまり場となっていた。

「外付け買ったらあ?」

「そんな金ない」

 三人はいっせいに、ちらりと本棚を見た。そこにはアニメのDVDが所狭しと並べられていた。

「なんでそんだけいろいろ見てて将棋強いんだろうねえ」

「テンション上がるだろ! 楽しいのが一番よ」

「幸せな人生ねえ」

 大関は立ち上がると、DVDを一枚手にしてプレーヤーに入れた。テレビから軽快な音楽が流れてくる。

「将棋の勉強始める」

「またそれかよ!」

 始まったのは「棋士騎士ナイトダブルキング」である。十年前に放送されたもので、普段は棋士の主人公が変身して悪と戦う物語だった。大関がアニメと将棋、同時にはまるようになったきっかけの作品である。

「これでレーティング200は上がる」

「はいはい」

 三人はゲームを続けた。これでも皆夕方は部室で持ち時間30分の将棋を指し、感想戦もしている。今は息抜きの時間なのである。

 秋の大会が近づいている。



「えー、ではオーダーを発表します」

 部長の美馬が言った。土曜日の部会。部員たちが勢ぞろいしている。

「いよっ、待ってました」

 三年生の小妻が茶々を入れる。ちなみに名前は勘四郎、あだ名は歌舞伎である。

「どうもどうも。最近は三回連続県立大にやられているけど、そんなに差はないと思ってる。負けたらオーダーを決めた俺のせいだから、みんな安心してほしい。では、読みあげます」

 美馬が、部員の名前を言っていく。



経済大学 秋大会オーダー

大将 大関(二)

副将 牛原(四)

三将 美馬(三)

四将 中谷(一)

五将 小妻(三)

六将 早(一)

七将 黄田(四)



「己李斗ー!」

「横綱になれ大関ー!」

 二年生ズが掛け声を出す。大関自身は顔色一つ変えていなかった。

 最も緊張しているのは黄田だった。初めてにして最後のレギュラーは七将。「確実に拾う」ことが求められる位置である。

「4番キャッチー中谷だな」

「キャッチャーかよ」

 一年生レギュラー二人も笑顔を見せていた。二人はプロ野球が好きで、一緒に赤いユニフォーム姿で歩いているところを他の部員に目撃されたこともある。

「はいはい、静かに。レギュラー以外もみんな出る可能性があるから、しっかり大会まで準備するように。よし、じゃあ対局しよう」

 秋の大会まで、あと一週間であった。


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