経済大学将棋部

【経済大学将棋部-1】

 じりじりとした展開が続き、黄田は何かを吐き出しそうだった。四年生の秋、最後に巡ってきたチャンス。絶対に手放したくないと思っていた。

 経済大学将棋部の部室では、レギュラー決定リーグが行われていた。その最終戦、成績で並んでいる黄田と平家が戦っていた。ともに四年生だが、ここまで歩んできた道のりは大きく違う。二年生でレギュラーになりずっと団体戦に出続けてきた平家に対して、これまで黄田は一度もレギュラーになれていない。平家がレギュラーになってから、経済大学は三連覇している。同級生の活躍が、黄田はうらやましくて仕方がなかった。

 平家も順風満帆だったわけではない。全国大会では全く勝てなかった。そして、春の大会では七将として「勝利を拾う」役割を任されていたが、最終戦で県立大学の北陽に負け、チームも3勝4敗で敗北した。経済大は、北陽は「県立大の穴」と考えており確実に勝つ予定だった。つまり、オーダー的には「勝てるはず」だったのである。

 二人の四年生が、最後の一枠を争っていた。レギュラーが確約されている部員たちが、じっと対局の様子を見守っていた。

 負けた方が、最後の大会でレギュラー落ちする。厳しい戦いだった。

 終盤になり、黄田の玉は追い詰められていた。だが、彼はあきらめるわけにはいかなかった。とにかく駒を自陣に打ち付ける。守って守って、そして、いつの間にか平家の攻めが切れてしまった。

 豊富に溜まった持ち駒で一気に反撃に映る黄田。流れからしても、平家がしのぎ切るのは難しかった。結果は、黄田の勝ち。

 こうして四年生、八大会目にして黄田は、初めてのレギュラーになったのである。



「秋、どこで出るかなあ」

 一年生の中谷は、サイコロを振りながら言った。

「俺は鍵山さんと当たりたいな。中谷はさ、春当たったじゃん」

 同級生の早は、中谷が黒い駒を動かすのをじっと見ていた。

 二人は、バックギャモンをしていた。好きなのは中谷の方で、彼はボードゲームマニアだった。チェスやオセロ、連珠など、様々なゲームでそこそこの実力を持っている。早は、そんな彼に付き合わされているうちに、どのゲームもルールはわかるぐらいになった。

「なんだよ、それ」

「あの強気な目、良くない?」

「そう? 俺はかわいい人が好きだな」

 白い駒が、取り上げられる。バックギャモンでは、進んでいた駒が相手によって戻されてしまうことがある。

「あー。やんなるね」

「適当に指しすぎ」

「ギャモン難しいわ。将棋しようぜ」

「仕方ないなあ」

 そんな二人の様子を、美馬は微笑みながら見守っていた。

 経済大学にとって、二人の入部はとても大きかった。大谷が入ったことにより、今年も県立大学は駒がそろっていた。ただ、野村が卒業したことを考えると、戦力がアップしたかは疑わしい。春大会では中谷は鍵山に、早は大谷に敗れた。ただ、差はそこまでなかったと見ている。少なくとも、「北陽やバルボーザには勝てるだろう」という信頼があった。

 県立大学に二連覇を許しているものの、部の雰囲気は悪くない。控えメンバーも充実している。

 美馬自身、春は中野田に勝利しており、手ごたえをつかんでいた。次こそはチームとして勝つ。彼は、秋が来るのが楽しみで仕方がなかった、

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