県内交流戦

【県内交流戦-1】

 部に県内交流戦の案内が届いた時、北陽一人が渋い顔をした。

「どうしたんですか。いい話だと思うんですが」

 部長の安藤が聞くと、北陽は答えた。

「前に一度出たことがあるんだ。ビッグ4と野村さんで」

「えっ」

「まあね、強いよね。五戦で24勝したらしい」

「えー、つまり、1敗?」

「そう。なんか、お通夜みたいな空気になったって」

「そっかあ」

 安藤は腕組みをしてしばらく考えていた。そして、こう言った。

「よし、じゃあ一二年生で行ってもらおう」

 そんなわけで、控え組を中心としたメンバーが交流戦に派遣されることになったのである。

 そして安藤は、菊野をリーダーに指名した。菊野は飛び上がって驚いた。

「な、なんで僕?」

「まあ、実際大会では控えメンバーのリーダー役みたいなのやっているしね」

「それは一番試合に出ていないからでは……」

「いいかい、オーダーも菊野君が決めるんだよ」

「ひぃぃぃ」

菊野は頭を抱えてうずくまってしまった。



交流戦 県立大学チームオーダー

1 菊野(二)

2 星川(一)

3 高岩(一)

4 猪野塚(二)

5 閘(一)



「えー、それではみんな頑張って……いきましょひょっ」

 菊野の声が裏返っていた。

「落ち着け、信介ちゃーん」

 猪野塚が後ろから菊野に抱き着いた。

「う、うん」

 一年生三人は、苦笑しながらそんな二年生たちの様子を眺めていた。

 会場には、百人近い人々が集まっていた。県内の様々な団体が集まった、お祭りのような空間となっている。

「で、本当にこの並びでいいの?」

「うん。決めたから」

 菊野はこの一週間、ずっと今日のオーダーのことが気になっていた。どういう風に並べればいいか。なぜ自分がリーダーに指名されたのか。勝つためにはどうすればいいか。勝ちを狙うべきなのか。いろいろと悩んだ。

 その結果、自らを大将とするオーダーが出来上がった。

「菊野大将、よろしくお願いします!」

「お願いします!」

 閘と星川が、半ばふざけて頭を下げる。菊野は作り笑顔で答えた。

 菊野の考えはこうだった。猪野塚以外は、級位者である。強い人が来たら太刀打ちできない。安藤がこのメンバーを指名したのは、経験を積ませたいからに他ならない。それならば、勝ちに行くのではなくより強い人に教えてもらえる並びにするべきではないか。

 それでも全敗は士気を下げるので、猪野塚は勝てるかもしれない四将に入れる。そして大将は、残った二年生である自分が務めるしかない。そんなわけで、菊野の考えるオーダーは完成した。

「よ、よし、じゃあ行こう」

 五人は、指定された対局席へ向かう。向かい側にはすでに、子供が五人座っていた。

 一回戦の相手は、「棋のままこども将棋教室チーム」だった。

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