【9回戦-2】

「うがあ」

 大谷のうめき声が聞こえた。バルボーザがちらりと横を見ると、大谷は5三の地点にと金を作られていた。「5三の地点に負けなし」という言葉は、ネット中継で聞いたことがあるので知っていた。

 愛嶺大学の勝ち頭は副将だった。会田も苦しんでいる可能性が高い。そうなると、五将は絶対に負けられない。

 バルボーザは攻め込まれていた。矢倉特有の、駒損を気にしない猛烈な攻めだ。ただ、少し無理気味だろう、と感じていた。

 正確に受ければ勝てる。その正確が難しいのだけれど。

 バルボーザは、しっかりと時間を使った。取る一手にも、一分をかけた。慌てずに、指す。きっちりと、読む。

 攻めをいなして、玉が逃げ出せそうな展開になってきた。ただ、飛車が狭い。これを取られると一気に危うくなる。

 じっくりじっくりと考えた結果、飛車を守るために駒を投入した。

 それから数手で、相手の有効な手はなくなった。

「負けました」

 バルボーザは、目をつぶったまま、何度もうなずいた。体から、全ての力が抜けていくのを感じた。



「おつかれさま」

「佐谷君こそ。しびれたね」

 安藤の言葉に、蓮真は珍しく照れながら頭をかいた。

 2勝2敗で残った三将戦。蓮真は詰みありと見て攻めていったが、打ち歩詰めで逃れる筋があった。幸いにも相手の攻め駒を抜く手があり、逆転には至らなかったが、県立大学のメンバーたちはずいぶんと肝を冷やした。

「また五位、か」

「中野田君抜きで頑張ったと思うよ」

 蓮真の視線の先には、喜ぶ紀玄館大学メンバーの姿があった。最終戦も4勝1敗で勝利。結局、2敗したのも県立大学戦だけという圧勝だった。

 蓮真は、かつての仲間の姿も、しっかりと目に焼き付けた。残された時間は一年半、全国大会のチャンスはあと三回しかない。

「また、来よう」

「そうだね」

 県立大学の夏の戦いが、終わった。



9回戦

県立大学3対2愛嶺大学

鍵山(二)〇

会田(二)×

佐谷(三)〇

大谷(一)×

バルボーザ(一)〇



順位


1 紀玄館(関西1)

2 房総学院(関東1)

3 石切(関西2)

4 平成才郷(関東2)

5 県立大学(中四国)

6 愛嶺(中部)

7 海鳳学園(北海道)

8 東北先端(東北)

9 糸島学園(九州)

10 日本海(北信越)



個人成績

1 北陽 出場なし

2 鍵山 4-5

3 福原 1-0

4 会田 5-4

5 高岩 出場なし

6 佐谷 6-3

7 安藤 出場なし

8 大谷 6-3

9 バルボーザ 2-5

10 猪野塚 0-1

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