【8回戦-2】

 会田は、深い息を吐いた。

 予想は外れ、相手はスーパーエースを自分に当ててきた。それはある意味、安心する出来事だった。チームは自分の負けを計算するからだ。

 ネットゲームなら、格上相手はボーナスチャンスだ。負けても数点しか下がらない。ただ、団体戦では誰に負けても1敗だ。しかも、そもそも誰かが格上に勝たないと県立大学は上位に行けないチームである。「どうせ負けてもいい」とまでは会田は開き直ることができなかった。

 相手は相居飛車の展開から3三に金を上がってきた。角道を止めて変な手だったが、会田にとっては「そこそこ経験のある形」だった。この大事な大会で、しかも絶対に勝たなければならない対局でやってくる人がいるとは思わなかったが。

 会田は、もう一度深い息を吐いた。奇襲は相手を驚かすからこそ意味がある。会田は全く驚いておらず、対策もしっかりと用意していた。

 何度もたどってきた、相手の意図を封じる手順。「この戦型ならば、相手がプロでも、中盤までは悪くならない」という自信が会田にはあった。そして、「強いのに何でこんな戦法を選ぶんだろう」とも思っていた。確かに対策を知らない相手に勝ちやすいという意味では、勝率はそんなに悪くないのかもしれない。しかし、対策を知られていれば格下にも負ける。自分なら、とても団体戦では使用できないし、個人戦でも格下に負けたくないので使わない。

 そして、会田は知らなかった。彼が五人の中で一番、形勢がいいということに。



「これはもう、仕方ないよ」

 北陽は、うなだれる安藤に言葉を書けた。

「まあ、そうですね……」

 安藤は、内心全く気持ちを整理できずにいた。初めてずらしたオーダーで失敗した。そして、五分五分と思っていた三局が全て劣勢になっていたのである。

 やはり関西第二代表は、これまでとは強さの質が違った。蓮真が普通に悪くなっているのである。安藤の目から見ても、力負けだった。

「全国は、怖いね」

「思った以上に。二位って、改めてすごいですね」

 県立大学に刻まれた、栄光の歴史。関西・関東の強豪を抑え、推薦入学もない地方の大学が準優勝した。ビッグ4+野村の五枚がいれば、どんな戦いができるのだろうか。安藤は考えてみたが、途中でむなしくなってやめた。

 今の県立大学は、まだ発展途上なのだ。14人の部員が、一つの部として成長できれば、もっと上に行けるはず。

 安藤は立ち上がり、会場に向かった。チームはすでに、3敗していた。



8回戦 

県立大学2対3石切大学

鍵山(二)×

福原(三)〇

会田(二)〇

佐谷(三)×

大谷(一)×

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