【8回戦-1】
8回戦
対石切大学戦オーダー
鍵山(二)
福原(三)
会田(二)
佐谷(三)
大谷(一)
「私でいいのだろうか」という思いを何とか抑え込んで、福原は副将の席に座った。
8回戦の相手は、関西第二代表の石切大学。ここまで県立大学は関西・関東勢には全敗しており、上位進出のためには負けられない相手である。
安藤は、「三将を外してくる」と読んでいた。石切にとって、二枚看板を会田と大谷に当てて確実に取り、有利の五将戦を生かす作戦である。ここまで県立大学は、並び自体は変えていない。相手はここまで通りの並びで予想してくるだろう、と安藤は踏んでいた。
二将に福原を入れることによりそこは苦しくなるが、三将戦は有利、それ以外は互角にすることができる。大谷が勝ちを望めるようになるのが大きい。
しかし、福原の前に座ったのは、初出場の選手だった。これで三将は県立大が不利、そして県立大有利の当たりはなくなった。読まれていたのだ。
しかし、福原は副将戦の相手を予想していた。相手も外してきた場合こそがプレッシャーのかかる展開だったので、予想せざるを得なかったのである。こうなると負けて当たり前、ではない。三将戦が苦しくなった以上、勝たなければならないのだ。
石切大学は、前年の冬大会には出ていなかった。部内に、今大会初出場の相手のデータはない。知らない戦型を指されたら終わりだ。しかし今の福原には、頭の中に何千局という棋譜のストックがあった。
福原は、祈りながら相手の指し手を待った。そして、飛車が真ん中に振られた。相手が選んだのは、ゴキゲン中飛車だった。
福原は、心の中で大きなガッツポーズをした。
「バル、今どんな気持ちよ」
「なんか、寂しいです」
中庭のベンチに、バルボーザと猪野塚が腰かけていた。二人同時に出番がないのは、今大会初めてだった。
「だよなあ。やっぱ、あの場にいたいよな」
「こういうのを、『ふがいない』って言うんですよね」
「そうだなあ」
うつむいている二人のところに、一人の男がやってきた。両手で、二人の肩をつかむ。
「反省会?」
「部長」
「いや、普通に落ち込んでたっす」
「そうか。最後のオーダー考えてたんだけど、基本に戻そうと思う」
「え、じゃあ」
振り返ったバルボーザは、目を丸くしていた。
「そう、出てもらうよ。なんたって、正式な五将だからね」
「良かったな、バル!」
猪野塚が、バルボーザの背中を力強くたたいた。
「が、頑張ります」
「頼んだよ」
安藤は微笑んでみせた。こうして、今大会自らの出場機会がないことも宣言したのであった。
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