【7回戦‐1】

「アズサは頑張ってる!」

 県立大学将棋部一行は、カレー屋に来ていた。大谷は「激辛にする!」と言い、そのためなかなか食事が進んでいない。鍵山はすでに食べ終わっていた。

「大谷に言われてもね」

「なっ」

「まあまあ。実際鍵山さんは頑張っているよ。今回の大将はどこもすごい」

 安藤は、そう言った後水を飲んだ。

「ありがとうございます」

「で、大谷君は食べきれそう?」

「もっちろん! ああ、かれーっ!」

 隣のテーブルの様子を見ていた蓮真と福原は、同時に噴き出した。



7回戦

対海鳳学園大学戦オーダー

鍵山(二)

会田(二)

佐谷(三)

大谷(一)

猪野塚(二)


 五将の席に向かう猪野塚の姿を、バルボーザはじっと見つめていた。

 大会最終日。ついに安藤部長はオーダーを変更した。バルボーザの位置に、そのまま猪野塚が入る。戦略的ではない、単純な交代である。

 ここまで、1勝5敗。チームに貢献しているとは言えない。五将決定戦を勝ち抜き、中野田の代わりに出場したのに、ふがいない成績だと自分でも感じていた。

 海鳳学園は前回の六位。ここまでの成績は県立大学と同じ、三勝三敗。上位に行くためには、負けられない相手である。作戦的には、北陽や安藤を上に入れて、相手の思惑を外す並べ方もあった。しかし安藤は、単に猪野塚を入れた。

 はっきりとは言わないが、その意図はバルボーザにもわかった。これからの部のことを考えて、若手を出したのである。そして、バルボーザに対する激励の意味も、あるのではないかと推測した。

 春大会は、4戦で2勝2敗。全国ではそれ以上対戦したにもかかわらず、1勝しかできていない。

 日本に来る直前、祖国にはもう敵がいなかった。同世代相手なら、普通に勝てる力があると信じていた。けれども、現実は厳しい。日本には将棋の強い同世代がゴロゴロいる。

 バルボーザは、全ての対戦をくまなく見て回った。強い者たちの姿を、目に焼き付けておこうと思ったのである。

 

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