【5回戦-2】

「次までは……同じメンバーで」

「それでいいと思う」

 自販機の前でコーヒーを飲みながら、北陽と安藤が話していた。

「冬田さんは副将ですし、ここはきついですね」

「正直、ここは負け覚悟で。三将の佐谷-松原戦でなんとかするしか」

「大将は鍵山-立川戦ですね。因縁の対決が二つですね」

「そうだね」

 蓮真、鍵山、そして紀玄館の松原、立川は元々、同じ地区の同級生だった。幼いころから何回も当たってきた。三人で県立大に行くと約束したにもかかわらず、蓮真に黙って松原と立川は紀玄館に行った。松原を倒すことを目標とする鍵山は、蓮真のいる県立大学に入った。

「本当ならば、優勝争いしたまま当たりたかったですけど」

「なかなかうまくいかないね。でもまあ、頑張っている方だよ」

「中野田君がいれば違ったんですけどねえ」

 まだ五回戦は終わっていないが、二人は次の対戦のことしか話さなかった。

 それほどに、戦況が悪かったのである。



 蓮真は、自分の手が震えているのに驚いた。

 勝ちを意識してから、止まらない。緊張が指先に全て集まっているようだった。

 強豪房総学院に勝つには、エースである自分が負けるわけにはいかない。前戦の負けも引きずっていた。1敗で複数チームが並んだ場合、勝ち数で優勝が決まる。決定的な1敗になってしまう可能性もあるのだ。

 取り返さなければならなかった。ここで勝ちに貢献して、帳消しにしなければならなかった。

 難解だが、詰み筋が見えていた。勝ちだ。正しく指せば勝ちなのだ。だが、駒が上手くつかめなかった。蓮真は左手で右手を支えて、何とか次の手を指した。

 相手が頭を下げた。勝った。

 立ち上がって周囲を見ると、うなだれる会田と大谷が見えた。鍵山とバルボーザはすでにいなかった。

 結果を確認した。1勝4敗。さきほどと、まるっきり逆の勝敗になっていた。

 今度は両手を膝に置いて、蓮真は崩れそうになる体を支えた。



5回戦

県立大学1対4房総学院大学

鍵山(二)×

会田(二)×

佐谷(三)〇

大谷(一)×

バルボーザ(一)×

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