【4回戦-1】

「ええと、その、鍵山さん?」

 福原が呼び掛けたが、返事はなかった。

 今回の宿は、全てが2人部屋だった。必然的に、女性二人は同じ部屋になる。

 部屋に戻ってくるなり、鍵山は布団の中に潜り込んでしまった。全身が見えなくなっている。

「今日は当たりがきつかったと思うよ。大将、すごいメンバーが並んでたから……」

「明日……」

 布団の中から、くぐもった声が聞こえてくる。

「え?」

「明日、紀玄館戦があります。そこでは私が勝たないと、きっと駄目だから……」

「それは……そうかも……」

 紀玄館大学は、今年も地区予選で圧勝して全国大会に駒を進めてきた。ただでさえ層が厚いうえに、五人制だと全く隙がなくなる。おそらくだが、五人目は誰が出ても全く歯が立たない。

「もっと、強くなれると思っていました」

「充分強いよ」

「まだまだです。でも……頑張ります」

「うん、頑張って。私、お風呂に入ってくるね」

「はい」

 福原が部屋を出た直後から、すすり泣く声が布団の中で響いていた。


 

対東北先端大学戦オーダー

鍵山(二)

会田(二)

佐谷(三)

大谷(一)

バルボーザ(一)



「勝ってきますよ!」

 大谷が、右手を挙げて駆け出した。

「元気だなあ」

 安藤は、その背中を見つめていた。

 大会二日目が始まった。県立大学はここまで2勝1敗。まだ、上位進出のチャンスは大いにあった。

 オーダーは昨日から変えなかった。東北先端大学とは昨年の冬も当たっていて、4勝3敗で辛くも勝利している。楽に勝てる相手とは誰も思っていなかった。

「おい、バル! 元気か!」

 一番後ろを歩くバルボーザに、振り返りながら猪野塚が声をかけた。

「押忍!」

「お、いい返事だ」

 部員全員が、対局をする部屋に入っていく。四回戦が、もうすぐ始まる。

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