【3回戦-2】
アズサの分まで。
大谷は、いつになく気合を入れて対局に望んでいた。相手は、古豪糸島大学。前回冬は全国大会出場を逃がしているが、安定して地区大会上位をキープしている大学である。
今回は、大将に各校のエースがそろっていた。いまのところ、明確な当て馬を使っているチームはない。それはつまり、鍵山の当たりがずっときついままになりそうということであった。
大谷はちらりと横を見る。蓮真は、堂々とした指し回しだった。ここまでチームに連勝は大谷と蓮真の二人。心の中で、「どこまで続けられるか勝負だ!」と大谷は意気込んでいた。
大谷は飛車を振り、美濃囲いに組んでいた。とても基本的な形だ。そこから力を出せる、という自信があった。そして、なんとしてでも勝って、鍵山の負担を減らしてやらねば、と考えていたのである。
前戦でチームが負けたが、蓮真は不思議と落ち込まなかった。相変わらず調子がいいわけではなかったが、どこかでほっとする気持ちすらあった。それがなぜかと考えたとき、「中野田がいないから苦戦するのは当然だ」という答えに行きあたった。
バルボーザが中野田だったならまず勝っていただろう、と蓮真は確信していた。確かに負けていいわけではない。ただ、先ほどの負けこそが、このチームには中野田が不可欠なことを示した。蓮真自身が、それを受け入れたのだ。
同級生三人で入るはずだった県立大学。蓮真は最初、自分だけがいるという事実に唖然としていた。受け入れることができなかった。それでも彼には、新しい仲間がいた。中野田、安藤、福原。三人がいたことで、団体戦に参加することができた。最初は最下位だった。けれども、いつかは優勝できると信じることができた。自分だけではなく、中野田がいたからこそ、あきらめずに前を向けたのだ。
決して仲が良いわけではない。それでも、蓮真は中野田に感謝していた。追いかけてくる存在。競い合う存在。頼りになる存在。蓮真が団体戦で経験してみたかったことのいくつかを、彼は与えてくれた。
中野田の分まで。
そう思いながら指した。チームが負けて、そう思うことができるようになった。
まだ、全国制覇する力があるチームではないという自覚があった。野村と覚田の卒業により、人数は増えても昨年よりも苦戦している。それでも、成長していけるはずだ。中野田がいない大会でも上位に入れれば、中野田がいるチームではもっと上に行ける。
相手に付け入る隙を与えない、完璧な将棋で蓮真は勝利した。それは、チームの3勝目でもあった。
3回戦
県立大学3対2糸島大学
鍵山(二)×
会田(二)〇
佐谷(三)〇
大谷(一)〇
バルボーザ(一)×
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