【2回戦-2】

 「上二枚がやばい」という話は聞いていた。平成才郷大学は二人のスーパーエースの活躍によって、関東大会で代表の座をつかんだ。五人制の本大会では、よりその二人の存在意義は大きくなっているはずだ。

 おそらく、その二人に勝てる可能性があるとしたら蓮真だが、鍵山か会田を外すのは現実的ではない。そうなると必然的に、県立大学は「下三枚で」勝つことが目標となる。

 バルボーザは、額から汗を流していた。

 ちらりと隣を見る。大谷は、快調に相手陣に攻め込んでいた。おそらく蓮真も勝つだろう、とバルボーザは信頼していた。

 やはり、自分だ。

 形勢は、互角だと思う。ただ、とても怖かった。一手間違えれば、転がり落ちてしまいそうに感じていた。

 母国では、自分より強い相手と指すことはまれだった。それが日本に来てから、次々と強敵と対戦している。日本の漫画も好きで、小さい頃はそこに出てくるヒーローに憧れもした。ただ、ヒーローとは違い、自分はすでに何回も負けてしまっている。

 もし世界を救う役割だったら、もう人類は滅んでいる。

 三・四年生が控えに回る中、自分が出ている。それもプレッシャーになっていた。中野田の代わりでもある。いろいろなものか、のしかかってくる。

 バルボーザは手待ちのつもりで金を寄った。しかし、すかさず角を打ち込まれた。一見すぐに捕まる駒だったが、角切りから金打ちで飛車が取られる。

 すでに、変化の余地がなくなっていた。

 粘らなくてはいけなくなった。

 迫りくる足音が聞こえた。春の大会は、チームは全勝した。自分が負けても、チームは勝っていたのだ。けれども、全国大会はそのようにはいかない。頼れるチームメイトも、簡単には勝てない相手と戦っている。

 追い詰められていく。バルボーザは、覚悟した。自分は、負ける。そしておそらく、チームも。

 逆転の余地はなくなった。それでも彼は、最後まで抗った。

 バルボーザが投了したほぼ同時に、会田も投了した。そしてチームは、三敗した。

 一年生にとっては、初めての団体戦黒星であった。



2回戦 

県立大学2対3平成才郷大学

鍵山(二)×

会田(二)×

佐谷(三)〇

大谷(一)〇

バルボーザ(一)×

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る