【2回戦-1】

「あーーーー」

 対局終了後、会田はうめいていた。

「ど、どうしたの」

 その顔を覗き込んで心配しているのは菊野である。

「空気が悪い」

「えっ」

「中野田さんがいないと佐谷さんが変でしょ。佐谷さんが変だと鍵山さんが変でしょ。鍵山さんが変だと大谷君が変でしょ。みんな変!」

 会田は頭をかきむしっていた。

「でも会田君、ちゃんと勝ったよね」

「つらかった。逃げたかった」

「まあ、挟まれているしね……」

 会田は副将であり、鍵山と蓮真が隣にいる。春大会では大将だったので、「そういうプレッシャー」はなかった。

「中野田さん……ああ見えてチームの潤滑油だったのかもしれない」

「そうだねえ」



対平成才郷大学戦オーダー

1 鍵山(二)

2 会田(二)

3 佐谷(三)

4 大谷(一)

5 バルボーザ(一)



「2回戦から山場だねえ」

 対戦表を見ながら、北陽はつぶやいた。

 相手は、関東第二代表の平成才郷大学。冬の大会には出ていなかったが、関東代表はどこが出ても上位候補である。

 北陽は今回、一番上に名前が書かれている。出るとすれば大将、いわゆる当て馬大将だ。安藤の申し出を断り五将決定戦に出場した結果、北陽は五将になることができなかった。それでも次点の成績であり、バルボーザの調子次第では交代する作戦もあった。しかし安藤部長は、北陽にこう打診した。「北陽先輩が最もふさわしいので、1番目にお願いできますか」

 四年生であり、全国大会の経験もあり、確かに最も当て馬大将として効果的なのは北陽だった。しかしそれは、「作戦以外では出場の可能性はない」ということであった。一番下、バルボーザの次に名前が書かれたのは猪野塚だった。不調なら、交代。その役割は二年生に。そういう安藤の意志だった。

 適切だと思う。自分を優先して使わせる道理はない。ただ、寂しいのも事実だった。全国大会で一回も勝てないまま、卒業するかもしれないのだ。

 ビッグ4や今のレギュラーたちに挟まれて、「唯一全敗」の男。トホホな称号だが、それも誇りなのかもしれない、と北陽は思っていた。敗北という役割を背負ってきたのだ。

 今回は、その役割すらないかもしれない。

 ふと覗いた大将戦では、鍵山の玉が追い詰められていた。


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